空々と虚ろ

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 スナックを噛み砕く音が止まる。手に持っていた分を広げた袋に戻し、「そうだなあ」とキヨは言った。  意外にも時々手入れしているらしい整った眉が、わずかにしかめられている。 「忌まわしい一族だよ。人を呪い殺すのを仕事にしてるのは本当だし、さらにタチの悪いことに、それを何とも思ってない」  まあ、かわいい弟を傍らに置くわけだしな。知っておきたいのは当然か。一人合点するように頷く。 「やつらはただ、人を殺してるからと言って、別にサイコパスってわけでもない。やつらにとって、殺すことは目的ではない。依頼人の目的の達成――それこそが、彼らの目的なのだ」  ちょっとマラソン大会当日にだけ体調を崩すように仕向けたり、逆にポジティブな願いを叶えたりという内容も、彼らは「仕事」として承っているという。 「殺しというのはショッキングだろう。だからか、世の人々はその点ばかりをとり上げたがる。そも、うわさになっている時点でやりにくいだろうが、そんなこと。廃業だ廃業、そんなのは。コスパも良くないから、あいつら滅多にやらんぞ」 「そうなのか……てか、詳しいな」 「ああ。何故だか、当ててみると良い。もし当てられたら、……そうだな。私に何でも一つ、好きな事をして良い権利をやろう」 「美女だったらな〜。お前が。そしたら燃えるのに」 「ふむ。魅力的じゃないのか? この条件が」 「逆に何お願いするんだよ。お前は? もしお前立場逆だったら、なんかしたいの?」  ふむ、と数秒考え込み、「ペットを飼うかな」と、にこにこしながら言う。 「……それ、おれ関係なくね?」 「どう関係してくると思う? その可愛いフワフワ天パ頭で考えてみると良い」  おれはポテチを数枚一気に口に放り入れ、むせかけながら「じゃ、今日はお暇するよ。訊きたいことも訊けたしな。サンキュ、浄喜」 と言ってドアを閉めた。  彼の目が笑っていなかったからだ。 (……まあ冗談はともかく、あいつがそう言うんなら、信じてみるか)  そう結論づけて、帰路につく。  璃空にとって、最初の友だちだ。曰くつき――そういうのとは若干違う気もするが――な感じではあるものの、上手くやっていければとは思う。  立ち寄った店で、簡易カメラを手に取る。写真の現像をする必要がないことで一躍人気をさらった、往年の旅行用カメラだ。 「これは多分、リクも喜ぶな。何せ、すぐに撮った奴が見えるし」  ついでに食材の買い出しをしておくことにし、スーパーへ向かう。肉と野菜が新鮮で安いので、ここの近くに住めて本当に感謝している。神とか巡り合わせとか、なんかそういうアレに。 「米も買っとくか」  今日はカレーにしよう、具は何にするかな――そんなことをぼんやり考えながら、もうすぐ学校が終わるだろうリクの、キュートな笑顔に出迎えられるのを待った。
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