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思い返してみれば、総輔は心配症だった。
人間の根本なんてそう簡単に変わるものではない、今も冬華を大事に思うが故の発言なのだとすれば納得がいく。
「ん…わかった。あとで解除しておく」
手の中に収められた布巾を戻すため、キッチンへ向かう私は総輔に背を向けた。するとすぐに背後から手首を掴まれ、立ち止まる。
「だめ、今して」
告げた総輔がテーブルの上に置いてあった私のスマホを手渡した。思わず「なんで?」と聞き返したら、互いの身長差にぐっと目線が上を向く。
「六花、忘れっぽいじゃん。どうせすぐ忘れていつまでも解除しないから、今してよ」
思えばこういう、ちょっぴり強引なところもあったなぁ、なんて。徐々に目の前の人物にピントが合っていく感覚に笑みが溢れる。
「必死すぎ、冬華のこと好きなんだねぇ」
「そりゃあ、お姉さまに会いに来ちゃうくらいには」
「ふふ、いつかは義弟かな」
「それも有りだね」
流れるような会話に促され、スマホへと視線を落とす。LINEを開き、ブロックリストから"エマ"と記されたアカウントを拾い上げたら、その画面をわざとらしく総輔の前に差し出した。
「ほら、解除したよ。これでいいでしょ?」
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