172人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめーん、お待たせ」
数分後、通話を終えた冬華がリビングの扉を勢いよく開けた。私たちは何事もなかったかのように椅子に座り、淹れ直した紅茶を飲む。
「友達、大丈夫だった?」
急ぎの用事? なんてさりげなく聞いた総輔の隣に腰掛けた冬華は「ん、彼氏と喧嘩だって」と。私の顔を覗き込むようにして、嫌悪感を滲ませた表情で続ける。
「浮気してたんだって、酷いよね」
「えぇ、浮気…それは悲しいね」
「ね〜、最低」
自分のことのように唇を尖らせた冬華。
今度は横で無言を貫く総輔に向かって口を開く。
「そうちゃんは浮気なんてしないでね?」
わざとらしく目を細めて告げたあと、総輔はへらり、薄い唇の端を持ち上げて言う。
「俺は一途だよ。お姉さんには伝わってますよね?」
突然のパスにティーカップがかたん、と音を立てた。ほんの数分前まで親しげに話していたくせに、冬華が来た途端これである。
「(俳優になれるのでは…?)」
これだけの演技が出来るのであれば、するかしないかは別として浮気くらいは簡単に出来そうだ。
私はごくりと唾を飲み、「江間くんに限ってないでしょ」と目の前で不安に揺れる冬華を宥めた。すると「だよね、そうだよね」なんて頬を綻ばせ下を向く。
「そうちゃんモテるからさぁ、ちょっと心配になっただけ。一途なのもちゃんとわかってる」
最初のコメントを投稿しよう!