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「……、あ」
わかりやすく心臓が跳ねた。
目の前で純粋な疑問を抱く冬華に誤魔化しのひと言も浮かばない私は、とっさに総輔の目を見る。
「……お姉ちゃん?」
不可解そうな眼差しが刺さる。
視界の端で冬華がどんな顔をしているのか想像するだけでまた、どくんと跳ねる鼓動。
数秒が長く感じる。私の泳ぐ視線に気付いた総輔はコートの袖口をきゅっと握っていた冬華の手を取り、恋人繋ぎをした。
「さっき、冬華が電話してる間に聞いたよ。2人とも名前に"ハナ"が付いてて素敵だね」
状況に似合わない、爽やかすぎる笑顔。のんきな、笑顔。
冬華は「そっかぁ」と玄関のドアノブに手を掛けた。私は苦笑いだけ浮かべながら、2人を、総輔の背中を見送った──。
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