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「大丈夫だよ。いつも言ってるでしょう? 彼、すごく素敵な人なの。お姉ちゃんもきっと気に入るよ」
そう告げた彼女が「いってきます」と家を出る。窓から冬華の後ろ姿を見送った私は安堵感から小さく息を吐いた。
冬華は私の自慢の妹だった。
人目を引く大きな瞳、ちょんと上がった鼻先、ゆるい天然パーマは生まれながらにして他者を引きつける魅力がある。
幼い頃からその場に立つだけで注目を浴びた彼女は、気付けば異性から向けられる好意的な視線に恐怖心すら抱くようになっていた。
そんな所謂"男嫌い"の冬華に人生初の彼氏が出来たのは約半年前。しかも告白したのは冬華だと言うから驚いた。
いつも私の後ろに隠れ、遠慮がちだった彼女を変えたのだ。さぞかし素敵な人なのだろう……亡き両親にも会わせてあげたかったけれど、こればかりは仕方がない。
「……よし」
冬華に恥をかかせるわけにはいかない。
食器棚から来客用のティーカップを取り出した私は、それを3つ並べると到着を待つ。
どんな人だろう。
冬華から散々聞かされた彼の人物像はとにかく優しく穏やかで、気配りの出来る人らしい。
付き合って半年──お互いの人となりも見えてきて、交際も安定してくる時期。冬華は相変わらずベタ惚れだし、何の心配もいらないだろう。
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