530

2/20
前へ
/102ページ
次へ
「大事にしてくれてるってことでしょ?」 「うーん…そうなのかなぁ」  ブラウンのマスカラを塗る。白い華奢な手は女の子らしいゴールドの腕時計を身につけ、テーブルの上に置かれたスマホはアプリからの通知で震えた。 「何か、気になることでもあるの?」  どこか思うところがあるような表情に問い掛けた。冬華は「いやぁ」と言ったけど、やっぱり何か言いた気だ。 「ないよ、ないけど…そうちゃんは優しいし、いつだって小さな変化に気付いてくれる完璧な彼氏なんだけど…」  "けど"。  そのひと言に全てが込められている。  言いづらいなら無理に聞き出すつもりはないけれど、冬華の言動はどうも誰かと共有したいように見えた。ならばと続く台詞を待ってみたらぽつり、話し出す。 「たまにね…遠い目をするの。言葉ではすごく愛を伝えてくれるけど、私なんか映ってないような、そんな……」  うん、うん。そっか。  相槌を込めた頷きは、冬華の言葉が進むにつれ鈍くなっていく。  …どういう意味だろう?  記憶の中の総輔には心当たりのない動作で全く想像がつかない。 「遠い目…? ぼーっとしてるってこと?」 「うーん…そんな感じかな…」
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

173人が本棚に入れています
本棚に追加