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「大事にしてくれてるってことでしょ?」
「うーん…そうなのかなぁ」
ブラウンのマスカラを塗る。白い華奢な手は女の子らしいゴールドの腕時計を身につけ、テーブルの上に置かれたスマホはアプリからの通知で震えた。
「何か、気になることでもあるの?」
どこか思うところがあるような表情に問い掛けた。冬華は「いやぁ」と言ったけど、やっぱり何か言いた気だ。
「ないよ、ないけど…そうちゃんは優しいし、いつだって小さな変化に気付いてくれる完璧な彼氏なんだけど…」
"けど"。
そのひと言に全てが込められている。
言いづらいなら無理に聞き出すつもりはないけれど、冬華の言動はどうも誰かと共有したいように見えた。ならばと続く台詞を待ってみたらぽつり、話し出す。
「たまにね…遠い目をするの。言葉ではすごく愛を伝えてくれるけど、私なんか映ってないような、そんな……」
うん、うん。そっか。
相槌を込めた頷きは、冬華の言葉が進むにつれ鈍くなっていく。
…どういう意味だろう?
記憶の中の総輔には心当たりのない動作で全く想像がつかない。
「遠い目…? ぼーっとしてるってこと?」
「うーん…そんな感じかな…」
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