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スマホ片手にひらひらと手を振った冬華が、寒空の下に消えていく。その背中が見えなくなるまで見届けたら家事に取り掛かった。
雪が降る。びゅう、と吹く風が窓ガラスに白を当てる音。ぱらぱら、まるで空からビーズが降っているかの如く打ちつける。
──スマホが着信を知らせたのは、その数時間後である。掃除を終えゆっくりリビングで映画を観ていた私を一気に現実へと引き戻す着信音に、画面には"冬華"の文字。
「もしもし? どうしたの?」
時刻は20時を過ぎたところ。
いつもならそろそろ帰宅する冬華からの連絡に慌てて対応すれば、電話口の向こうで風の吹き荒れる音がした。
『もしもしお姉ちゃん? 聞こえる?』
「うん、聞こえてるよ。何かあった?」
『今うちの最寄り駅にいるんだけど、電車が止まっちゃって…そうちゃんお家に帰れないの』
「えぇ? それは困ったね…」
窓から見える景色は確かに荒れていて、夜だと言うのに一面真っ白。交通機関も運休になるはずだと納得する私に『うん…』と躊躇いがちに続ける声。
『タクシーも全然拾えないし…そうちゃんには今夜うちに泊まってもらってもいいかなぁ?』
伺い立てる冬華に、思わず「へ?」と飛び出た声がひっくり返ってしまった。
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