823

4/14
前へ
/102ページ
次へ
「はは…確かに…」  愛想笑いを迎え撃つのは、愛想笑いで十分。  総輔が私を忘れているのなら別にそれで構わない。付き合った期間だってそんなに長いものではなかったんだし、今更思い出させたところでお互いに気まずい思いをするだけ。  ならば私も姉として接していればいい。  終わったことは掘り起こすものではないのだ。 「江間くんは…冬華のどんなところを好きになってくれたんですか?」  当たり障りのない話題を選んだ。  総輔を名字呼びしたのなんていつぶりだろう…付き合う前まではそう呼んでいたから、数年ぶり? 懐かしい。  冬華は「ちょっとやめてよ」と言いつつ頬を赤らめながら彼を見る。その横で、特に恥ずかし気もなく総輔は言う。 「どんなところ……難しい質問ですね。俺には勿体ないくらい、魅力的な人だから」  ちらり、寄せられた眼差しに無言のまま肩を叩いた冬華は照れているのだろう。それに気付かず「ん?」なんて穏やかな問い掛け。初めて目の当たりにする恋をした妹の顔は、何よりも輝いて見えた。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

172人が本棚に入れています
本棚に追加