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「は? あたし、そんなこと聞いてませんけど」
久保田あいりは第一声でそう言った。
結局彼女が私のところに顔を出したのは、終業間際の午後五時半。午前中できなかった宛名書きをしようと、空いていた小会議室に入ってから十分後のことだった。
「その人、だれか他の人と間違えたんじゃないですか?」
「そうですか……予約を頼んだ方は、久保田さんのお名前を挙げてらっしゃいましたが……」
若手営業部員の勘違いという可能性もなくはない。けれど本人が違うと言っているので、これ以上はどうしようもない。「わかりました」と言おうとした矢先、彼女がぎろりとこちらをにらんだ。
「違うって言ってるでしょう! 長澤さんがあたしを選んだからって、やっかんで変な言いがかりつけないでもらえますか!」
「別にそんなつもりでは」
「長澤さん言ってましたよ。滝川さんのこと、ぜーんぜん愛想もなくてかわいくないって。地方から来て大変だから世話してやっただけなのに、勘違いされて困る、これだから田舎もんは嫌だなって」
彼女は小ばかにしたようにくすっと笑う。
会議室の件となんの関係があるの?
のどまで出かかった言葉を無理やりのみ込んだ。相手にしたらこちらの負けだ。
今大事なのは、会議室のダブルブッキングのこと。彼女がかかわったかどうかは別として、同じミスが起こらないよう課員全員で気をつけなければならない。
「せっかくですので、これを機に受付担当の皆さんでも会議室予約マニュアルの確認を――」
「しつこいわね! あたしじゃないって言ってるでしょ!」
彼女はそう言って立ち上がると、思いきり私を睨みつけてから小会議室から出ていった。
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