だれもすきになることのできない欠陥人間

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「はぁ……」  カクテルを飲んでも気分は晴れそうにない。やっぱり早く帰ろうと思い、残りの半分を一気に喉に流し込もうとした、そのとき。 「一気飲みはお勧めできないな」  弾かれたように振り向くと、見知らぬ男性が立っていた。  目尻に向かって下がる奥二重のまぶたに、きりりと横に伸びる眉。シャープな輪郭の中心を、高い鼻梁がすっと通っている。  年は三十過ぎくらいだろうか。少し癖のあるダークブラウンの髪を軽く後ろに流し、すらりとした体にぴたりと合った三つ揃えスーツを着こなしている。  一八〇センチを優に超えた長身の彼は、およそ画面の中にしか見ることのできないほど整った容姿を持っていた。 「そのカクテルはおそらくレディキラーだ」 「どういうことですか」  初対面の相手に返事をすることはいつもならしない。けれど、尋ねずにはいられなかった。  男性は、さっきまで長澤さんがいた席に腰を下ろすと、おもむろにカクテルグラスを手に取り、クイッとひと息にあおった。 「あっ……」 「正解。これはアレキサンダーだな。口当たりがよくて女性に好まれやすいけれど、実はアルコール度数が高いカクテルのひとつだよ」  甘くておいしいからと、ジュースのように飲んでいたら、気づいたときには前後不覚になることもあると言われ、ぞっとした。 「意中の女性を酔わせて口説き落としたいと目論む、卑劣な男の常套手段だな」  驚きを通り越して、血の気が引いていく気がした。  私がアルコールに強くないことは、わりと最初の段階で長澤さんに伝えていた。きっと彼は、最初から私を酔わせてホテルに連れ込もうとしていたのだ。もしあのとき、久保田さんが現れなかったら――。  想像しただけで背筋が凍りつきそうになる。
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