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「エレベーターで入れ違いになった男女が口にしていたんだ。きれいな名前だなと思って覚えていた」
「ありがとうございます……」
あのふたりとすれ違っていてもおかしくないタイミングだ。彼らが私に関してなにを話していたのかわからないけれど、レストランバーでの私の様子と照らし合わせて、彼らとの間になにかあったことは想像に難くない。
案の定、東雲さんは「彼らとなにかあったのか?」と聞いてきた。
「なんでもありません」と言いかけて口を閉じる。
いつもなら出会ったばかりの男性に愚痴を言ったりはしない。けれど今は、なぜか無性に聞いてほしい気持ちがせり上がってきた。『他人に話してどうするの』という自分もいて、気持ちがシーソーのように揺れ動く。
すると突然、頭の上にポンと手を乗せられた。
「話すことで楽になることもある。愚痴でもなんでも、僕でよければ吐き出してみたらいい」
きっともう二度と関わることもない人だ。それなら思い切って話してみてもいいかもしれない。
「実は」と、さっきの出来事とそこに至るまでの経緯を切り出した。
東雲さんはお世辞にも上手とは言えない私の話を、渋い顔をしながらも最後まで遮ることなく聞いてくれた。
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