だれもすきになることのできない欠陥人間

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だれもすきになることのできない欠陥人間

「今、なんて……」  私、滝川(たきがわ)美緒は、思わず自分の耳を疑った。  カクテルグラスに伸ばしかけた手をピタリと止め、向かいに座る男性を凝視する。 「部屋を取ってある、と言ったんだ」  喉がひゅっと音を立てた。聞き違いならどんなによかっただろう。  総務部の先輩長澤貴司(ながさわたかし)が、四角いシルバーリムの奥からこちらをじっと見つめる。  その鋭い眼光に言い知れぬ恐ろしさを感じて、無意識に上半身を後ろに引いた。背中が椅子の背もたれに当たり、はっとした。 「どうして……」  私にそういうつもりがないことを、わかってくれているのだと思っていたのに。 『恋愛抜きで構わないから』  そう言ってくれたのは嘘だったのだろうか……。  半年前に東京の本社へと異動してきた私のことを、彼はなにかと気にかけてくれた。  秘書課の彼とは所属違いの総務課だが、彼は少し前まで総務課にいたからと言って、事あるごとに手を差し伸べてくれた。  真面目で優しい人だと思ったから、私も正直に自分が抱えている『事情』を話したというのに――。
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