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これがただの夢ではないと思いはじめたのは、中学校に上がる頃。
幾重にも重ねた着物が『十二単』と呼ばれる平安時代の貴族女性の装束だと知り、夢は起きているときに体験したことを脳が整理している状態だということも知った。
それならどうして体験しようもないことを、あんなにリアルに夢に見ることができるのだろう。
もしかしたらこれはただの夢でなく、生まれる前から持っていた『記憶』なのかもしれない。
けれど『前世のことを覚えている』と言い切れるほどはっきりともしておらず、夢の中の一場面以外はなにもわからない。
まるでフィルム映画の一部を切り取ったかのように、同じ場面だけが脳に貼りついた状態だ。
もちろん手紙の主の顔も名前もわからない。
そのくせ、感情だけはやけに生々しく、毎回胸の中をかきむしりたくなるほどの強い痛みに襲われる。例えでも誇張でもなく、本当に張り裂けてしまいそうだと思えるほどだった。
「はあ」と大きく息を吐き、肺の中に新鮮な空気を入れる。
そろそろ起きなきゃ。
今日はこれから出かける予定がある。
夢の残滓を引き剥がすように、重い体をベッドから起こした。その途端、ふとサイドテーブルに置かれた名刺が目に入った。
「東雲智景……か」
何気なく手に取って裏返したら、手書きで携帯番号とメールアドレスが書かれてある。プライベートのものだろう。その下に『連絡待っている』と書かれている。
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