〇練馬・住宅街・一軒家・外

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〇練馬・住宅街・一軒家・外

照り付ける太陽。 鳴いている蝉。 鬱蒼とした木が茂る家屋の、庭へ通じる錆びだらけの門扉の前。 パンツに半袖ブラウス姿、首からカメラを提げ、リュックを左手に持った山田茜美(あかねみ)(29)、手の汗をパンツでぬぐうと、名刺入れから名刺を一枚取る。名刺入れをリュックにしまうと、「ぷーん」と蚊の鳴く音。 それを鬱陶しがって首を振る茜美。 「ぷーん」「ぷーん」と蚊の鳴く音、二つになる。 茜美「ああ。もう」 茜美、たまらず名刺を尻ポケットに入れて、顔の周りで滅茶苦茶に右手を振り回す。そして、首の後ろを掻く。 茜美「かゆい」 と言いながら、リュックから虫よけスプレーを出し、首にかけようとボタンを押す。虫よけスプレーは、「ぷすう」と一瞬音がしただけで薬剤が出ない。 茜美「あちゃあ」 呆然としている茜美。 腰に「大竹酒店」の前掛けをした大竹敏雄(65)、手を振って満面の笑顔で走ってくる。 大竹「山田さあん」 茜美「わ」 息を切らせて茜美の前に立つ大竹。 大竹「待った?ごめんね。山田さんですよね」 茜美「はい、あの」 大竹「ちょっと今、息子の嫁とあれしちゃっててさ」 茜美「はい?あ。あの」 と言って手の中に名刺がないことに気づく。 あ、と気づいて尻ポケットから名刺を出して、大竹に渡す。 茜美「初めまして。今日はお世話になります。雑誌『ぱらの丸』編集部の山田と申します」 大竹、受け取った名刺をうれしそうに両手でくねくね曲げて弄んでいる。 大竹「わあ。名刺がお尻から出てきて、ちょっと紙がしっとりしてて、わあ」 茜美「ああ。すいません!」 大竹「いいのいいの。早速参りましょ(茜美の虫よけスプレーを指さして)虫よけスプレー、用意がいいね。ここ、夏はやぶ蚊がすごいんだよ。まあ、僕は全然刺されない体質なんだけどね」 茜美、あ、という顔。
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