君の見る景色

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君の見る景色

2020年 人とAIの以前より問題視されていた倫理的側面の課題が正式に議論されるようになる。 2025年 ディープラーニングや強化学習により、AIが国際的に進展を見せ、人の生活を脅かし始める。 2030年 さらなるAIの発展により、人類の一割が職を奪われる。 2035年 AIを倫理的観点やアルゴリズム的な観点から規制しようとする派閥とAIのさらなる発達を目指す派閥に大きな溝が生まれる。 2040年 人類の三割が職を奪われ、AIを巡って両派閥の関係性がさらに悪化する。 2045年 人類の半数が職を失い、両派閥の関係が最悪に。 2050年 派閥間により、AIを駆使した大きな戦争が始まる。 ---- 毎月の事ながら配給も配金も底をつき、ぬるい水道水に齧り付く生活を送っていた。 あと2日で配給の日。 月の初めに 8万円と缶パンを二つ、米を5合、水を2Lが国から支給される。 職を失った民に救済としてその様な措置が取られている。ベーシックインカムともいうらしい。 配金の中から税金、電気、ガス、水道、通信費を払い、生活費も賄う。 とてもじゃないが、足りない。 AIが全ての職に介入し、仕事を奪われた2040年から10年。人類の半数以上が職を失った現在、配給にすすり泣く生活を送るのは私に限った話ではない。 外に出て息をするだけで金がかかる。 そんな中で私は生きている。 仕事も趣味もなければ、 恋人は愚か、友人すらいない。 もはや、通信費を払う意味もわからないスマートフォンで、ネットサーフィンをするだけの日々。 職を失って直ぐの頃は、アルバイトの求人も多くはなかったが存在した。どんな内容だろうと飛びついて働いた。 不定期に更新される求人サイトに張り付いて食い繋ぐ生活だった。 今では、求人など幻。 AI戦争の影響もあり、物価高。 町には、死を待つだけの 人と屍の狭間みたいな輩がウヨウヨしている。 時間があっても金が無ければ何もできない。 どこで誰が死のうとお掃除AIによって綺麗にされる。 おかしな事にAIの権利を訴える連中が増えれば増えるほど人間の尊厳は死んでいくのだ。 人間は生きているだけゴミとなる。 そんな時代だった。 潔く死んだ方が上の人間からしたら都合がいいのだろう。上のAIかもな。 人が暴れようが、AIによって粛清するだけ。 人の世界は終わりを迎えようとしていた。 「どうせなんもねーのになんでみてんだろか。」 生きるため、遊ぶためには金がいる。 諦め悪く、求人サイトの更新を続けている。 何度更新しても検索結果は0。 そのはずだった。 「なんじゃこれ。」 ☆私のヒーローを探しています。 業務内容 私のヒーローになって頂きます。 給与   いくらでも 応募資格   特にありません 募集人数 できるだけ 求めてる人材  ヒーローを志す者、強い意志がある者、戦う意思がある者、この時代にうんざりする者、奪われた者、私と共に世界を変える者。 応募締め切り 2050年 ○○月○○日 数回の面接及び試験あり。 「何年かぶりに見た求人がこれかよ。」 見るからにふざけた求人にあきれる。 奪われた者か。ふざけてる。 この時代に奪われてない人の方が少ないだろうが。 まあこんな求人を張るんだ。 お前はうばわれてないんだろな。  それに、求める人材があまりにも革命的すぎないか?戦争でもおっぱじめるきか。 それなら、徴兵でもなんでもするべきじゃなかろうか。そもそもヒーローってなんだ。 あらゆる可能性が頭を巡る。 しかし金もなければ娯楽もない。 気になり出したら止まらない。 どうせこのままだとジリ貧で死ぬんだ。 行ってみるか。 詳細のわからない求人に応募することにした。 奇妙な求人は、直ぐに詳細を寄越した。 4日後、指定された公園に集合することになった。 ----- 指定された日になった。 2日前に配給があった為、交通費及び風呂に入り身なりを整えるくらいの余裕はできた。 AIに体を洗われ、AIによってお湯が張られた風呂に浸かり、AIによって洗濯された服を着て、AIが運転する電車に乗って公園に向かった。 もとは、商業施設だったこの場所だが、利用者の激減により公園となった。普段は、旧型のAIがシステムの調整などに使っている公園らしい。 あたりには、馬車馬の様にはたらくAIとそれを指揮するAI、私と同じ目的と見られる薄汚い人間が何人もいた。中には、私と同じ様に身なりだけでもと、小綺麗にしているであろう連中もいた。 辺りを観察していると、背後から声がかかる。 「ヒーローはよぉからあげみたいなもんなんだよ」 一瞥くれて、すぐさま目を離す。 関わるべきではない。焦点が合わずフラフラと。およそ人と呼べる装いをしていない。 こんなのも受けるのか。 指定の場所に着くと、驚くほどの人の数。 応募条件がなかったとはいえ、想像の遥か上を行く人の多さに戸惑いを覚えた。 数千はいるんじゃないか。 綺麗な公園の広場が一瞬にしてゴミダメと化した。 しばらくして、高台の上に人影見える。 施設だけは立派なもので、高台の左右には大きなモニターがついている。しかし、立派な施設に似つかわしくないゴミのような人間達が放つ独特な雰囲気も相まってか、異様な空間だった。 人影は辺りを見渡した後、深く被ったフードを外した。その瞬間、女であることがわかった。 「くそおんながぁぁぁ!!!なにでしゃばってんだぁ!!!!」 「ぶちおかしてやろうかぁぁ!!!!ひっこめくそあまぁが!!」 民度は、最底辺。無理もない。 女と分かった瞬間、怒号が飛び交う。しかし、女は、事前にわかっていたと言わんばかりに全く気にも留めずに、高らかに叫んだ。 「貴様らは人間である。人として生き、人として死ぬのが本望。しかし、それを奪われた。誰にだ。誰に奪われた。私は奪われていないぞ。それはこれから先もだ。お前らはどうだ。奪われることに慣れている。そのまま死ぬのか?汚く惨めに死んでいくのか?人間なのであろう?私と共に生きようではないか。私はヒロインだ。私のヒーローになってくれ。どんな想いでもいい。私と共に世界にぶつけてくれ。その為に、お前達を呼んだ。このままジリジリ死んでいくなら私に力を貸して死んでくれ。」 集まっていきなり、罵倒される。一部の層には刺さりそうだが。 どこの誰とも知らない女の声は不思議と響いた。聞いたはずのない声なのに、どこか懐かしく心に寄り添ってくれるような声。会場の異様な雰囲気に当てられてか、誰も口を開くことはなかった。ただただ美しい声が耳をかすめて広がっていく状況に感銘を受けた。込み上げてくるものがあった。これがカリスマ性なのか。 呆気に取られていると広場の後方から叫び声が聞こえた。 「ただちに両手を頭の後ろに組み膝をつきなさい」 「うぁぁぁぁ」 公園内の警備AIが異常を感知したのか、取り締まりに来た。会場にいた大勢は平伏し降伏をきめる。そんな中、叫び続ける女がいた。 「それだ。なんで膝まづく。たかがAI3台じゃないか。」 「何を言ってるんだ!!ここで反抗したって後から他のAIが粛清にくる。逃げられないんだよ!」 「そうだそうだ!!」 「なんでお前のために死ななきゃいけないんだ!」 「だからってそのまま屈服してても死ぬだけじゃないか。死に方くらい自分で決めたらどうだ? 変えたい未来があるんじゃないのか?」 さっきよりもさらに響く声で高らかと反逆を促す女に釣られて何人かの人間がAIを破壊しようと動きだした。 「もう面接ははじまってるんじゃねーか?」 「こいつらいつかはぶっ壊してやりたいって思ってたんだ。」 「ふざけやがって。お前らがいなきゃ俺の嫁は死んでねーんだよ。」 怒りに先導された応募者の何人かは既にAIとの戦争に参加する気概を見せ始めている。 ヒーローになる心づもりなのだろうか。 大勢が困惑している中、女のスピーチはさらに加速する。 「私のヒーローには、世界を救うことができる。AIを全て潰して人間の世界を取り戻す。それがヒーロー。私のヒーローだ。なりたいなら戦え!戦わなきゃ勝てない!人間の尊厳を取り戻すために戦うんだ!」 半数が平伏し動けず固まっていた。多くの人がその場から逃げだした。 スピーチにあてられたわずかな人がAIを攻撃し、AIと戦った。 私はどうする。仕事を奪われ、金がなくて、飯も碌に食えない。家族も友達もいなければAIが作り出す娯楽には手をつけたくない。日々、ギリギリの飯をくってネットサーフィンをして生きていくだけ。人と言えるものではない。 奪われることに慣れている。その通りだ。 やらなきゃいけないんじゃないのか。夢だってあったはずだ。思い出せ。私は生きている。 私、いや俺はヒーローになれるんだろうか。 いいじゃねぇか。 どうせ屍になるのなら。 ヒーローになってやろうじゃないか。 俺はAIじゃない。ヒーローだ。
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