やっぱりマイクロン

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やっぱりマイクロン

幾度となく夢にみる。小さい頃見たアニメでヒロインのピンチに駆けつけるヒーローの姿を。 やっぱり憧れるのはヒロインだ。女の子だし。 王子様が現れるっていうのも捨て難いけど、私はヒーロー派かな。かっこいいなぁ。 ----- 私は、それはそれは裕福な家庭で育った。父親が何をしているのかは詳しく知らなかったが、AIの技術の発展に貢献したマイクロンAIという発明の第一人者であった。 父の周りには、常に人がいてペコペコしていた。 そんなお父さんが少し不気味だったけど、私には優しかったから好きだった。お母さんもお父さんのことが好きで好きでたまらないみたいだった。口を開けば、父の話をしていたような気がする。 もういないけど。 殺された。父も母も。目の前で。 人は簡単に死ぬらしい。 普段と何ら変わらない日だった。 突然やってきた父の会社の人が父親の首を掻っ切った。 叫ぶ母に、逃げるよう促されるが動けるわけがなかった。 血を流し倒れる父から目を離せなかった。 私を庇うようにして母は死んだ。 母は苦しんで死んだ。 人の心など無い様に、そいつは母を弄んだ。 体を押さえ付けて、親指から順番に手指をへし折られた。だんだん小さくなる母の悲鳴は、幼いながらに私の心を蝕んで離さなかった。 そいつは、足に体重をかけすり潰すと、声も上げられなくなった母を股から腹にかけてパンを千切るようにして抉った。 母の臓物が散らばるのを見た。母の血が黒く見えた。 そいつが次のターゲットを私に定めかけた時、父の会社の仲間がそいつを破壊した。 父の仲間の装いをしたそいつを破壊して、私は助かった。助かったと言えるかはわからないが、命を奪われる事はなかった。 ------- 大勢の取り留めのない声が響く公園で、私はひどく困っていた。ヒーローになると決めたはいいものの、その場にうずくまるものが多すぎて身動きが取れない。乗り越えようにも数が多すぎる。こんなとこでうずくまっていた所で死ぬだけだろうに。辺りは、すでにAIと人の戦闘が始まっている。AIの数は少ないが、金も力もない人がいくら束になった所で勝てるものではない。ぐちゃぐちゃに粉砕されている人間も少なくない。 そんな惨劇をみて、動かない人間の数が増えている。 戦うことは諦めたくないが、戦う手段がない。 パッションで乗り越えられるのなら、AIに仕事など奪われていない。 そんな中でも、高台の上にいる女は叫んでいる。 人が死ぬ事に重みを感じていないのだろうか。 「奪われる事に慣れているお前たちは、ここでうずくまっているがいい。情けない。大事な人がいないのか。幸せを願いたい人がいないのか。」 何でそんなに偉そうなんだ。奪われた事がないとか言ってたくせに。 「ふざけるなよ。女が。戦うって言ったて勝ち目がねーじゃねぇかよ。」 「ばかばかしい。戦う意思をもたきゃこいつらは攻撃してこねぇ。俺は帰るぜ。」 広場の人間が叫ぶ。 「帰りたいものは帰れ。しかし、勝ち目がない?誰がそんなこと言った?お前たちは人であり、人としてヒーローになるんだろう?あるんだよ。私が一番嫌いなのは、AIじゃない。足りない考えで、あいつらの前にひれ伏すお前らだ。お前はまだ生きてるじゃないか。まだ戦えるじゃないか。思い出せ。怒りを思い出せ。願いを思い出せ。大切なものを思い出せ。感情を表にだせ。あとは私がサポートする。」 彼女にあてられる人がさらに増えた。怒りが再び燃え上がる。屍が息を吹き返したように、見えている広場の景色が一気に変わった。 「そうだ。感情を乗せろ。お前たちには、私と私の父が発明したサポートアイテムがついている。勝てないもので戦うな。人間を生かせ。」 空から無数のガラクタが降ってくる。 遠くから見ると、まるで粉雪のように白く細々したものが降ってきた。 辺り一面の空は奇妙なガラクタに支配された。 その異常気象を感知したAIが一斉に、広場に集まってきた。数が爆増する。 「うぁぁぁぁぁぁ」 「囲まれるぞ」 「案ずるな。お前たちには旧AIマイクロンがついている。私が全てをかけてつくった叛逆の狼煙だ。お前たちの感情を武器に身体強化、防衛にも有効だ。戦える。戦えなかったものたちの分まで戦えるんだ。」 「マイクロン?」 「これをこーすればいいのか?」 次第に広場へと届いたマイクロンなるものを人が身につけ始めた。 駆けつけてきたAIが高台に向かって、突っ込んだ。女が狙われた。 「ぐっしゃぁぁ」 大きな手のようなものにAIが握り潰される。 初めてみる光景に人が惹きつけられる。 「見たであろう。マイクロンはこうやって使う。まずは広場の制圧。そのまま公園を制圧する。 報酬は約束する。AI一体につき100万。核となるアイのカケラをもってこい。これは試験でもあり、戦いだ。これから共に戦ってくれるお前たちを誇りに思う。」 「100万?」 「アイのカケラ....」 「やったるわぁぁぁ!!」 感情に熱を当てられた人達が、立ち上がりマイクロンを装着した。 戦う準備が完了した。
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