まだない名前

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まだない名前

およそ試験とは言い難い 激しい戦闘が始まって数分経った。 辺りには、胴を切られた死体や焼死体。 突然空から降ってきた物を完璧に使いこなすのは難しく、多くの犠牲者を出している。 そんな中、AIに集中砲火を受けている高台の女は、次々とAIをガラクタに直している。 その様は、異様で広場にいる人間にも影響を与えていた。 「なんだありゃ。ばけもんか。」 「顔色ひとつ変えてないぜ。」 「壊せそうだ。」 「だいぶ慣れてきたな。」 何台かAIを破壊する事に成功した者も存在し、戦い方にも違いが見られる。 私も、適正があるのか体がよく動く。 「そこのお前!手伝え!俺が抑えてるから今のうちに壊してくれ」 自分と同じ年くらいだろうか。そんな呼び声が聞こえる。 チャンスでは、あるので作戦に乗ろうと攻撃に試みる。 壊せる。そう思った瞬間。 上から二つの影がみえ、それが人であると認識した頃には、AIは粉砕されていた。 「これは私たちのものね。」 「ああ。当たり前だ。」 「きゃーかっこいい!」 呆気に取られていると次のAIが突っ込んでくるが、2人によってまたも粉砕された。 「それじゃあねぇ。助けた恩とかいらないから」 「なんじゃあいつら」 手柄を横取りされたと言わんばかりの態度だった。 まあいいと切り替えたのか、私に話しかけてくる。 「お前1人だろ。俺とくまねぇか。みたところまだ倒せてねーだろ?やろうぜ」 胡散臭いじじいだが、私も同じであり、悩んでる暇もないので共に戦う事にする。 「よろしく頼む」 --- 「あともう少しだ!踏ん張れ!戦えてる!」 とてもヒロインとは、思えない強さを見せる高台の女が声高らかに叫んでいる。 その後も、AIを破壊するため俺と私で組んで戦う。 しかし、力の差が明確でサポートに回る形になることが多く、単独撃破にはいたらなかった。 アイのカケラも集めることはできなかった。 戦闘開始から2時間後、公園一帯の戦闘AIが殲滅された。 多くいた人間が、数えられるほどとなり、火葬AIが死体を燃やし回収していく。 仮にも同じ目的で戦ったはずなのに、敵である人間の死体をAIが回収いていく様は異様に気持ちが悪かった。 気色悪い光景をずっと見ているわけにもいかない為、俺と私達は高台の女の指示に従い次の戦いに向けて集められた。 「お前たちは称賛に値する。すでに、マイクロンを使いこなし戦う術を取り戻した者も多い。だが、お前たちは奪われすぎた。取り戻す為の準備段階に過ぎない。そこで初めに取り戻す物を教える。ここから先、公園全体を取り戻す。」 いくら周辺の戦闘AIを駆逐したからと言ってすぐに公園内に集結する。悠長なことは言ってられない。公園を占拠し、AIへの対策を立てるほかないのだ。 「お前たちには、面接の一環であるものを取り戻してもらう。」 「あるもの?」 「そうだ。名前だ。」 名前。人を呼称する事で区別をつけるもの。 2040年頃 衆議院、参議院共にAIの議員が八割を超えた頃、人間が名前を名乗ることが禁止された。 人類がAIに屈服し、馴れ従う羽目になった最初の政策とも言える。 人間が失うものを増やすたびに名を名乗る必要性がなくなっていったため、必然的に名を名乗る文化が衰退した。 「私は!秋山輝昭が父!秋山涼風!父の思いを晴らすために戦っている。」 「秋山輝昭?」 「あの秋山コーポレーションの?」 この時代を作ったとも言える名前に響めく。 「何でそんなお嬢様が戦ってんだよ。しかもAIと。俺たちを騙してるんじゃないのか?」 「お前父親のせいじゃねーか。」 「説明しろよ。」 「俺の仲間だって死んだんだ。」 「何が試験だ。」 そう唱える者もいるが。私達は目撃しているのだ。彼女が立派にAIを粉砕し、私達を鼓舞し続けた先ほどの戦闘を。救われた者を少なくない。 恐れ慄いてきたAIという存在と真っ向から争う地獄に足を踏み入れられるのは、彼女の理解不能な力によるものである。 「父のことは、ヒーローになるものに説明する。逃げたければいつでも逃げろ。ヒーローにとって名前は武器だ。ヒーローになりたいやつだけ名前を名乗れ。」 私と共闘していた俺が早速名乗りを挙げた。 「茨城県出身!加藤瑛二!57さい!声のデカさなら負けねぇ!!よろしくぅ!!!」 誰に向けて叫んでいるのかは定かではないが、全員に聞こえる声でそう言った。 しかし、57か同い年じゃないか。 「斉藤和義だ。運動は得意だ!よろしく頼む!」 「柊修斗。分析と計画ができないやつは嫌いだ。足手纏いは、もっと嫌いだ。負けるつもりはない。」 「うちは、岩城雫!しゅーちゃんと結婚するの!よろしくねぇ!」 次々と名乗りをあげるヒーロー候補に、久々の感覚を味わう。 数千人いた人が五十人程度になった。 あと十数人で名乗りが終わると言うところに、大きな音を立てて公園付近の戦闘AIが現れた。 「くっそ。もうきやがった。」 「まあ、少しは休めましたかね。」 「それにしても数が多すぎる。」 「しゅーちゃん、どーする?」 「ついてこい。」 「おいおっさんどーするよ。」 「さっきと一緒で協力だ。」 「型が違うやつがいねーか?」 「もう囲まれてやがる。数百は居るぞ」 「心配するな。ここに残ったお前たちには、マイクロンと私がついている。気づいてると思うが、マイクロンは戦って慣れるしかない。これは二次試験だ。これから先の為にも、この戦いは大事だ。」 高台の女、秋山涼風は勇敢だった。 横目でその姿を見て、感動を覚えるほどに。 「いくぞぉぉぉぉ!!」 「おぉぉぉ!!」 娘くらいの歳の彼女を見ていると自然と力が湧いてくる。 それは、他の皆も同じだった。 圧倒的な数と強さを誇るAIに挑む戦いが始まる。 ヒーローに向けての戦いがまた始まる。
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