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明らかな強さ
完備AIを探す、柊一行とは別で広場に残った者たちは、またしても秋山涼風の強さに惚れ惚れしていた。
自身が傷ついたり、他のものが傷つきそうになるたびにアイのカケラを食べて戦っている。
これが試験なのだとしたら、彼女はなんなのだろうか。求人によって集められた我々が主催者側によって守られる。おかしなこととは言えないが度がすぎている。
広場に集まってきたAIを仕留め、完備AIを潰し公園内の制御を奪うまで続く戦いに絶望を覚え始める者も少なくなった。
私も例外ではなく、加藤瑛二と共に仲間内ではまずまずの戦績をあげてはいるものの、展開次第ではいつ死んでもおかしくないと感じるほどだった。
「おいあれみてみろよ!」
「何だあれは。」
体長は、170センチほど。手足は長く、鋭い剣先のようなものが手足として機能している。
スタイルが良く、女型のAIであることが分かる。
「うぁぁぁぁぁぉ」
「いかれてやがる!」
我々と対峙していたAIをその鋭利な手刀で切り裂くと内部からアイのカケラを穿り出し、食いちぎった。喰われたやつらは当然ガラクタとなり、散らばる。
「AIがカケラを食った?」
「どー言うことだ?これは。」
辺りのAIがそいつを敵と認識したのか、攻撃を開始する。しかし、あまりのスピードに太刀打ちできるものではなかった。
周囲のAIを蹴散らした後、そいつはこちらに目を向けると加藤を襲った。
「加藤!!」
「あぁぁぁぁぁぉ」
加藤の腕が弾け飛ぶが、危機一髪の所で助けに入る。
「食え。それじゃあ戦えない。死ぬぞ。」
「わかっ、、た、」
気乗りしない様子だったが、迷っているわけにもいなない為、アイのカケラを口にした。
「半分に分かれるぞ!こいつは、一人じゃ無理だ!複数人で囲む。」
秋山が人を選んだ。私、秋山、西野、野崎で包囲。それ以外で、残りのやつらを殲滅からの合流とした。
「いくぞ。」
「おりっりゃぁ」
西野が一目散に飛び掛かるも一瞬のうちに視界から外れたそいつは、背後に回って西野を細切れにしようとしたが、秋山がカバーに入る。その隙に私と野崎で死角から攻め入るも寸前でかわす。
野崎の腹に手を突き刺し、私の首に蹴りを入れられる。皆戦いの中で、致命傷寸前の怪我を受けては、カケラを口にして何とか気を保つ。
ギリギリの攻防を続けている中、
秋山がカケラを口して今まで以上のスピードで足に狙いを定めて突撃する。
片足の破壊に成功した事をきっかけに、畳みかける。
野崎と西野が視界から思いっきり剣を振りかざす。私は、交わそうとするそいつの懐に入り込み核となる腹部に衝撃を流し込む。
「ぐふっ、、す、ず、、か、、?」
「え?」
「とどめだ!しねぇ!」
野崎が首を切り落とすようにして剣を振るい落とし西野がアイのカケラを引き抜く。
「よっしゃぁぁぁぁ!!」
「何か聞こえた?」
「いや?なんかあったんすか?」
「いや特に。」
私には、聞こえた。涼風と呼ぶ声が。
AIであるはずのあいつから。
ひどく困惑している様子の秋山だったが、私が声をかけられることはなかった。
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柊一向の前には、突如として現れたそいつがいた。
カケラを食べ、バフをかけて戦う茅場兄弟をサポートできる者はいなかった。
邪魔が入らぬよう、柊を中心に雑魚狩りを担当していた。
「あいつ、人をモノみたいにプレスしやがる。」
「あんなのに挟まれたら終わりやな。」
何度か、手足を潰されているはずなのに戦う姿勢をやめない兄弟に柊達は、恐怖を覚えていた。
鋭い薙刀を武器にして戦う茅場兄と、マイクロン頼りの武闘派スタイルの弟のコンビネーションは凄まじかった。
しかし、超えられない壁はある。
そいつは、強いはずのそいつは、強かった。
戦いを好む戦闘民族でもなければ、油断して自滅する噛ませ犬でもなかった。人間であれば、付け入る隙もあったかもしれない。
全てを正確、素早く対応してくる。
「きもちわりぃなぁぁぁ」
脈絡がない。なさすぎた。
茅場弟の背後に回り込むと脊髄を分断するかのような太刀筋で背中を切り裂き、鉄板のようなもので押しつぶされて地面となる。
弟が平面になった事に、動揺している時間はない。
そいつの標的はすでに、兄の腹を砕き抉った後の柊修斗にむいていた。
茅場兄弟の戦いは、終焉を迎えた、
そのはずだった。
マイクロンがぐにゃぐにゃと初め、茅場兄弟の体を成形した。茅場兄弟が再生する。
「茅場!」
「でもなんだあれは、?」
人間として機能しない部位はマイクロンにやって再生されていた。肉体と機体が混じり合った狭間の存在。
人間、AIどちらとも言えない装いだった。
「俺たちは、AIに育てられた。」
「育てられた?」
「実の親には捨てられた。運が良かったのだと思ってた。偶然、お前らに救われて恵を受けたのだと思っていた。お前に殴られて、腹を抉られて思い出したよ。マイクロンが何でこんなに馴染むのか。お前らが奪ったんだな。今まで忘れてた自分が許せねぇ。俺たちを実験台にして作ったからだ。それに、、親も、、。」
「マイクロンの実験?」
「てことは、秋山コーポレーションの被害者?」
「詳しいことはあいつに聞く。親は、まあいい。記憶にある恩は、手を繋いで捨てられたことくらいだ。ただ、弟は違う。弟を傷物にされて黙っていられるか。これはこうやって、使うんだよなぁ!」
感情が爆発する。髪が逆立つほどの殺気を発している。
先とは、比にならない速度で地面を蹴り、そいつに飛び掛かる。蹴りはかわされるが、敵の刃を交わし、眉間に己の薙刀を叩き込んだ。
「今だ!」
兄が気を引いて、弟が時を伺う。怪我が酷くほとんどが機械である弟は、ものすごい音を上げながら、そいつのカケラに蹴りを叩き込んだ。
アイのカケラが粉砕される。
「うぉぉぉおぉぉぉぉ!!」
茅場兄弟の勝利である。
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「これじゃないか?」
「おそらくこれですね。」
「すぐに起動させよう。」
柊一向により、完備AIが操る公園のシステムを掌握する事に成功した。
公園の出入り口は閉鎖。公園内で戦闘中のAIも制御システムにより、停止。
公園内の完全な制圧が完了する。
「よっしゃぁぉぁぁぁ!!!」
「生きてる!!!」
「よっしゃぁぁ!!!」
司令室とも言える室内に、生き残りの者たちが揃った。
互いに健闘を讃えあう。突如として始まった事件であったが、仲間と共に混沌を生きながられた事により、仲間意識が芽生えていた。
随分と助けられた、柊修斗という男に。
「アイのカケラだ。並のセンスじゃないな。今までどうやって生きてきた?」
「どうもこうもねぇよ。このご時世でもやれることはある。動けないじじい、ババアが大勢いるんじゃねーか。」
「まさか、盗むのか?」
「しねーよ。そんなこと。バカかよ。バレたら即通報、即処刑じゃねーか。買い物を手伝うんだよ。規模は小さくして工夫すんだよ。」
「ふふん!しゅーちゃんすごいでしょー!」
「ああ、若いのにすごいな。」
素直に尊敬する。
「若けぇからだよ。それに全然足りねぇ。」
茅場兄弟と人型AIの戦いは、とてつもなかったと生き残りが飽きるほど語たった。
柊も見ていたのだ。
「おい。秋山、聞かせろよ。どうして家族を殺して俺たちは、AIとして育てられた。」
「あぁ。お前たちには、話さなければならない。聞いた話で申し訳ないが、、、、」
「いやいやよくもご無事で。」
仇は突如としてくる。
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