私は。

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私は。

腕を砕かれた、加藤。 柊も岩城も茅場兄弟もその他の生き残りも疲弊しきっている。 戦う発想すらなかった者たちがいきなり呼び出され、これほどの激闘を戦い抜いたのだ。 余裕などあるわけがない。 そんな戦いの中、最前線で命を張った秋山涼風は、アイのカケラを食べ過ぎた事により身動きが取れずにいた。 現在の生き残りは34名。 傷はあれど五体に不備がないものが10名。 破片が目に入り、片目を失ったものが1名。 手や足を失ったが戦えるものが12名。 鼓膜が破れ聴覚を失ったものが1名。 下半身を失い、戦闘不能なものが2名。 アイのカケラを食べすぎたことにより、気分を害しているものが8名。 アイのカケラは、諸刃の剣であり決定的な回復、武器になりあることはない。それを酷く痛感する状況だった。 数千といた応募者は、極端に数を減らす異常事態であった。 ---   「おい。秋山、聞かせろよ。どうして家族を殺し、俺たちをAIとして育てようとした。」 「あぁ。お前たちには、話さなければならない。聞いた話で申し訳ないが、、、、」 「いやはや、涼風様。ご無事で何より。」 「飯山!どうして!こんな遅いのよ!予定と全然違うじゃない!」 飯山と呼ばれるその男は、ひょろっとした手足が長く、同じくらいの背丈の肩幅の広いスーツの男を侍らせてきた。 その男たちは、我々を囲う様にして立った。 「遅い?そんなはずはありませんけどねぇ?邪魔だった片山を殺して、涼風様が弱るのを待つ。最適なタイミングです。」 「え?飯山、、、?何を言って、、、、」 「こいつには、手間がかかりましたよ。」 白髪を掴み、乾いた血が数滴垂れる老兵士の首を 目の間に晒した。 周りに存在する我々など気にも留めない様子で展開を進める男。 戦いの休息が終わりを告げる。 アイのカケラを頬張り、目に止まらぬ速さで突撃しようとする秋山。 「ぐっ、、、」 しかし、飯山の腕によって静止される。 「どうし、て、、、なんで!ずっと一緒にやってきたじゃないか!!!」 高台にいる時から見てきた勇猛に戦う彼女の面影はもはやどこにもなかった。 「12年前、涼風様は見たでしょう。輝昭様は殺され、お母様も殺された。叶わないんですよ。勝てるわけがない。なのに、あなたと片山ときたら、復讐、復讐、復讐、復讐、復讐、復讐、復讐。」 「なにが、、おかしいんだ、、。親を殺されて、恨んで、何がおかしいんだ、」 「ふふ。いやおかしくはないんですけどねぇ。 一番あなたが嫌いな者があなたの近くにいる。 一番あなたが恨んでる者が、私である。 この感情がよくわからなくてねぇ。」 「は?なにいって、、」 「教えて欲しいんですよぉぉ!! この私に!!! あなたの仇である私に!! AIであるこの私に!!!」 服を脱ぎ捨て、飯山の身体が露わになる。 そこにあったのは、 AIのシンボルであるアイのカケラと 父が開発した初代マイクロンであった。 試験を終えたはずだった一同は、予想外の展開にどうすることも出来ずに立ち尽くしていた。 誰かが、彼女を守り飯山という男を止めなければ、全滅することなど分かりきってきた。 しかし、頼みの秋山は戦える状況にない。 茅場兄弟や柊、他の連中も先の戦いで消耗しきっている。 もはや、手を打つことなどない。 「おいお前ら。ただのアルバイト風情だろ。こっちにつけよ。この女を始末したら秋山コーポレーションは、俺のもの。どの道金も払われねぇよ。こっちにつくなら、殺さないでやる。ただAIには、するけどなぁぁぁ!!」 AIにされる。よくわからないが飲める条件ではない。 気づいたことがある。 「そろそろ話してくれないか。大事なリーダーなんだ。」 思い出したことがある。 「なんだ?クソジジイ。何ができんだよ。お前が。」 久々の感覚になる。 「お前、本当にAIか?ごちゃごちゃ喋りすぎだろ。もっと静かなもんだろ。」 「はぁ?なにいってんだよ。クソジジイが。うるせーよ。死ねよ。」 「やめて!みんな、戦ってくれる仲間なの。」 秋山の声も虚しく飯山の斬撃は、 私を目掛け飛んでくる。 「がきぃぃぃいぃん!」 高らかな金属音が響く。およそ、人間から出る音とは思えない音で辺りが困惑する。 「涼風。ヒーローは名前が大事って言ってたな。やっぱりカッコつけて名乗りたいもんだ。」 「すずか?どうして、、、」 長かった。何十年と。 仲間と共に戦って思い出した。 アイのカケラを食って思い出した。 戦う娘を見て思い出した。 私は人ではなくAIであるということを。 AIでありながら、人の親であるということを。 大切な人がいると言う事を。 「俺の名は、秋山輝昭 秋山コーポレーション  代表取締役 社長                       その子の父親だ。」 父親としての戦いが幕を開ける。
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