集まれ!補欠部

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集まれ!補欠部

 高二の春、俺は野球部の補欠としてくすぶっていた。  このままでは夏の大会はベンチどころかスタンドで応援だ。  やべーぞ、俺。  青春ってもっと汗まみれのはずだろ?  そこで、新しく『補欠部』を作ることにした。 「あの……」  針金みたいに細い眉毛の監督は見た目がコワイ。  だけど、俺の退部と創部に快く賛成してくれた。 「やってみろ」  背中を押され、校長に直訴すると意外とトントンと話が進み……。  野球部、サッカー部、バレー部、バスケ部、ラグビー部。  俺も含めて集まった補欠は総勢十名。  それぞれの部活でずっとベンチを温めていたヤツらだ。 「誰にだって輝ける場所がある!」  俺たちは全スポーツを教えあってがむしゃらに練習した。  野球のバッティング&ピッチング、サッカーのドリブル&シュート。  バレーのアタック! バスケのノールックパス! ラグビーのトライ!  どれもやってみると難しい。  しかし、次第に眠っていた才能を掘り当てる部員が現れ始めた。  元バレー部のピンチサーバーはバスケの三点シュートで奇跡の成功率100%。  元サッカー部の控えゴールキーパーはラグビーのスクラムで抜群の力を発揮した。  みるみる成長し、新天地で飛躍を遂げる部員たち。  とうとう大半の部員が週末の試合に戦力として呼ばれるようになった。  メンバーの士気は高まる一方。新入部員も加わった。  俺は勢いに乗ってクラスメイトの高山凛にマネージャーをお願いした。  俺がずっと片想いしている相手だ。  デートなら即断られただろうが、今、校内で大注目の補欠部のマネージャーだ。  即OKをもらった。 「あたためますか? あたためませんか?」  連絡係の凛は派遣依頼を受けると、まず先発かベンチかを確認した。  今や主力の部員たちは複数の部活からオファーを受ける人気ぶりだからだ。  より出場の機会が多い試合を選んでブッキングする。  他の補欠部員も全員どこかの部活の試合に召集されていた。  俺を除いて。 「えッ、どういうこと?」  俺はキャプテンだよ! 主将だよ! 俺が集めた補欠部だよ?  恥ずかしいので部内の経理事務や備品の整理に没頭した。  部室にこもる日々が続いた。 「俺だって試合に出たい!」  その欲望はある。  でも……。 「俺って才能ないのかな?」  凜に相談しようと思ったら、どうやら補欠部のスター選手と交際中らしい。  知らなかったのは俺だけ。  誰にだって輝ける場所があるんじゃないのかよ!  自分で掲げたスローガンを疑いたくなる。  突然、野球部のコワモテ監督が部室に入ってきた。 「戻ってこないか?」 「え……?」  思いがけない監督の言葉に戸惑う俺。 「どうして野球のグラウンドがダイヤモンドって呼ばれるか知ってるか?」  えっと。 「形が似てるからじゃないですか?」  俺の答えに、監督は細い眉毛をハの字に曲げてニヤリと笑った。 「選手が輝いて見えるからだよ」  意味が分からなかった。 「その理屈で言うと輝くのは内野だけです」  つい言い返してしまう俺。  ダイヤモンドの中で光るのはバッテリーと内野手だけだと思った。  励すつもりだろうが、俺の守備位置は外野だ。  監督は「ハハッ」と笑って出て行った。  でも、あのコワモテの監督に意見を言えたのは自分でも驚きだった。  補欠部を立ち上げる経験を通して、度胸がついたのかもしれない。  俺は部の解散を決めた。  メンバーはそれぞれ新しい部活に散らばった。  俺だけが出戻りだ。  それでも何かが違う。  またベンチに戻った俺に集まったのは他の部員たちからの同情ではなかった。  監督に堂々と意見し、他の部活の練習法を提案した。  そんな俺に集まったのは仲間たちからの厚い信頼だった。  誰にだって輝ける場所はある。  俺は今、そう信じられる場所にいる。 (了)
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