機嫌

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日が沈んだ学校の廊下。 張ってあったポスターを別の物に替えていたら東郷に声を掛けられた。 返事をするより早く手の届かなかった場所に手を伸ばされて「これでいい?」と笑顔を1つ。 普通の生徒と何も変わらない。 何度も見たけど、本当に制服を着ててちょっと焦る。 「ありがとう」 少し気まずく思いながらもお礼を言って次のポスターを手に取った。 あれから2週間。 いつもこの調子だ。 あたしが1人で居ると、ふらっと声を掛けてくる。 内容は挨拶だったり雑談だったり、普通のモノで別に変なことを強要されたりはしない。 それこそ“分からないから教えて”と教科書を出してきたり普通の生徒と同じ。 東郷の言う“機嫌を取る”の意味が分からなくなるほどだった。 東郷は3ー1の生徒で学校では静かすぎず騒ぎすぎず、普通の生徒らしく過ごしているようだった。 悪目立ちする訳でもなく何か抜きん出ている訳でもない。 良くも悪くも普通の生徒。 生徒数も多くまだ担任も持てていない立場のあたしは、全校生徒を覚えきれていなかったらしい。 時々、あたしと話してたと言われたが、あたしの記憶に東郷の姿はなかった。 どちらかと言うと女子と話す事が多かったし、やることも多くて毎日必死。 話し掛けてくる生徒は沢山居て、毎年卒業と入学を繰り返すから顔ぶれがガラリと変わったりもする。 さすがに担当の学年の生徒は覚えているけど、別の学年の生徒は制服を着てなきゃ気付かないこともあった。 印象が変わって見えるし。
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