機嫌

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そう言えばあった。そういうこと。 教材を運ぶのを手伝ってくれた生徒がバランスを崩したのか鞄から煙草を落としちゃって、運悪くその場に通り掛かった教頭に見つかった。 後から聞けば、お兄さんから預かった煙草を鞄に入れっぱなしにして忘れていただけだったらしいけど、その時は落とした生徒も凄い焦って、しどろもどろ。 煙草を吸う感じにも見えなかったし、なんで?って感じ。 そもそも持っていたのが不思議。 とにかく荷物を運ぶのを手伝ってくれるような優しい子なのに、これで停学になっちゃうのかと思ったら何だか勿体なくて。 本当は良くないけど、あたしが落としたことにした。 煙草なんて吸わないし、軽く疑われたが『根は不真面目なんです。見えないでしょ』って笑って乗りきった。 メチャクチャ怒られたけど、まぁ別にいいやってそんな気持ち。 その後は没収して軽くお説教をして廃棄。 あたしの中だけで終わらせた話。 「あん時の先生、教頭相手にすげぇ悪い女みたいな顔で笑っててさ。平気で嘘吐きまくるし、普段真面目なだけにギャップが凄かった」 「あれはまぁ…、って悪い女みたいな顔ってどんな顔よ」 「男を騙して悪さしまくってそうな顔」 「えー」 「この先生、裏でもあんのかなって見てだけどやっぱ真面目だし。何かもう気になって止まんなかった」 そう言って東郷は照れたように視線を逸らして古いポスターを剥がした。 ちょっと乱暴。 恥ずかしそうにしちゃって。 まるで告白でもされているみたい。 動揺する。
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