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第5話 ハシモト・ハーレクインは寺の子?
「美術コースの子たち、いい感じだったね!」
「悪い感じだと思ってたのは、あんただけだよ」
「やっぱり人って会って話してみないと分かんないもんだね〜。しかし、リュウオウって変な名前だよね。笑っちゃうよね。彼、龍王って感じじゃないしね」
「まあね。でも、彼が悪い訳じゃないよ。ヘンテコなキラキラネーム付けられて辛いのは彼だからね。悪いのは親だよ。私なんて逆キラキラだから、彼の気持ちを察するよ」
「逆キラキラね〜。上手い事言うね。そのリュウオウくんだけど、スギのことずっと見てたよね?一目惚れかね?」
「そんなこと無いでしょ。みんなダンス観てただけでしょ」
本当にそんなこと無いと思う。私に本当に興味がある人なんていないと思う。両親ですら興味が無いんだから。正直、私も私に興味が無い。
「そうかな〜。杉子さんはスタイル抜群ですからね〜」
「茶化すな!私だって好きでデカくなったわけじゃないんだよ!それに、スタイルだけ見て一目惚れだとしたら、最低じゃん!」
でも、正直、スタイルに自信が無い訳ではない。胸はともかく、足は長いと思う。でも、そこを見て、一目惚れとか言われても全然嬉しくない。
母の周りにいるスケベおじさんみたいな目で見られたくない。スケベおじさんも嫌だし、スケベ心を分かりつつ利用している母も嫌だし、次いでに言うと、スケベ心を露骨に利用している人たちは本当に嫌だ。
自分はそうなりたくない。TikTokやInstagramでパンツ見せて踊ってる子とか本当にあり得ないと思う。ダンスはスケベおじさんのための物ではないと思う。ダンスは真面目にやりたいと思ってるからこそ、この気持ちに水を刺されるのは本当に腹が立つ。
「何そんな怖い顔してんの〜。でも、ホント美術コースもいい感じだし、神社も悪くないって思ったよね」
「だから、神社も悪いと思っていたのは、あんただけだよ」
「寺とか神社とか暗い感じしない?お化けとか妖怪とか出そうで嫌じゃない?特に、寺は嫌だよね」
「私は神社も寺も嫌じゃないよ。むしろ、空気が落ち着いていて好きだよ。お化けや妖怪は嫌だけど・・・。というか、寺とか神社嫌い過ぎてない?普通、そんな意識しないと思うけど」
「寺に住んでたら、寺とか神社嫌いになるよ」
え?寺とか神社に住む?
「あんたが妖怪ってこと?」
「違うよ。実家が寺なんだよ。言ってなかったっけ?」
優奈の言葉に驚いた。寺の子?この容貌で?破戒僧?いや、破戒尼僧?色々な言葉が頭の中を駆け巡った。
「あんたの実家お寺なの?」
「だから、そう言ってんじゃん」
「今まで、散々、私の名前を古いとかバカにして言いまくってたけど、お寺なんてキングオブ古いじゃん!もう、私のこと古いって言う資格ないからね!」
ちょっと勝ち誇った気分だ。
「別にバカになんてしてないよ。名前のセンスが古いって言っただけだし、バカにしてるのはスギの昭和な言葉のチョイスだけだよ」
「いい〜〜〜!また、バカにした!もう!腹たつ!」
両手をブンブン振り回して抗議した。
「そうそう!そのリアクションセンス古い!まあ、古き良き昭和のセンス?」
「まあ、いいわ。優奈も古き良き日本文化と密接な関係があることが分かったから、安心したよ。古きに縁がある者同士仲良くしていきましょ」
「ハハハ!オーケー!仲良くしていきましょ」
優奈の声は不思議と元気が出る。たまにムカつくけど・・・。ここは、あんたがいるから安心できる場所だと心から思う。優奈、ほんとたまにムカつくけど、有難う・・・。
「ところでさ、スギってお化けとか見える人?」
「は?何言ってるの?見える訳ないじゃん!ってか、いないでしょ!」
唐突に本気か冗談かも分からない口調でおかしな事を言う。
「ふ〜ん、いないか・・・」
優奈は顎を撫でながら、何か考えるように宙に目を漂わせている。いつもと少し違う彼女の様子にゾワっと鳥肌が立った。
「何、何、あんたは見えるの?」
見えないって言って欲しいという願いを込めて質問した。
「まあ、寺の人間だからなのか、見えるというか、生きている人間とお化けの区別が付かない・・・」
全く望んでいない答えが返って来た。お化けの類いは怖いが、しかし、ここで臆していたら女が廃る。精一杯の虚勢を張って叫んだ。
「優奈!あんたが何者だろうが、私の友達だからね、いいね!」
「う、うん。もちろん・・・」
優奈が呆気に取られたように目を丸くして頷いた。そして、伏し目がちになリながら、笑みで口元が歪んだように見えた。その笑みが、喜びの笑みならいいのだけど、と思いながら、また、一つ質問をした。
「私は、生きているよね・・・?」
「え!スギは生きてるよ!大丈夫。区別が付かないって言ったって、初見の時に一瞬区別が付かない時があるってだけで、しばらく一緒にいたら間違いなく区別できるよ」
「それはよかった!じゃあ、このクラスにもお化けはいないね」
「それも大丈夫。このクラスにはいないよ」
その言葉にちょっと安心した。
「あ!」
「何よ!また、脅す気?」
「スギの昭和のリアクションのセンスはもしかしたら、何かが取り憑いているか、昭和生まれの新しいタイプの幽霊かもしれない・・・・」
「おい!ふざけるな〜。ドキっとして損した。私は名前が昭和なだけだよ」
「その名前は大正時代のセンスだけどね」
「ひどっ!」
「ふっ、あははは・・・」
二人して笑った。鬱々とした人生だけど、優奈とふざけ合っている時間は、私にとってかけがえの無い大事な時間だ。
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