真逆剤

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 彼女たちは再度疲れたようにため息をついた。 「お待たせ~」  そうこうしているうちに莉音が水のボトルを持ち戻ってきた。 「紙コップがあったから、それで飲もうね」  そう言いながら莉音は机の上に紙コップを並べ、それに水を注いでいく。コポコポと音がした。そのあとにカラコロと鳴る薬瓶の蓋を開けると、その手に錠剤を取り出した。 「はい、これ」  莉音は紙コップと真逆剤を私たちに手渡していく。 「せーので飲もうね」  莉音の声に、みんな神妙な顔で頷く。それを見て私は閃いた。 「せーのっ……」  彼女の声に合わせてみんなが一斉に真逆剤を飲む。私は飲まず、みんなの行動を眺めている。  不安があると言えばそうなのだが、みんなの反応を薬でかき乱されていない状態で一度見ておきたいと思ったからだ。  んぐっと薬を飲み込んだらしき音が聞こえる。 「……飲んだ?」 「ううん」 「んじゃ、碧はちゃんと飲んだ?」 「飲んだ」 「は!? 飲んでないの!? ……って、違うか。逆に聞こえてるんだっけ」  莉音は私が飲んでいないと思いカッとなったのか怒鳴りかけたが、真逆剤の効果を思い出したらしい。一人で考え納得しているようだ。  どうやら、真逆剤の効果は本物らしい。  莉音の呼びかけに対し、クラスメートたちは「ううん」と否定した。つまりは、彼女の呼びかけが「飲んでいない?」というニュアンスのものに聞こえたというわけだろう。  そして、その否定は莉音にとって「うん」という肯定の意になる。  ――これは面白そうだ。  私は心を決め薬を口に含み、ぐっと水を飲みほした。
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