真逆剤

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 放課後、私が母に一言「莉音の家に行ってくるから」とだけ言うと、「そう」という淡白な返事が返ってきた。 「いってきます」  小さくそう呟き、ぱたりと玄関のドアを閉める。  莉音の家は、大きな洋風の屋敷である。というのも、彼女の父親がこのあたりの地主で、多くの収入を得ているからだ。 「碧!」  莉音の屋敷の前へ行くと、私以外の全員がそろっていた。 「みんないるね」  莉音が全員いるかを確認したのち、私たちは「お邪魔します」と扉をくぐる。 「みんなが来るちょっと前に、届いたのよ、例の薬」 「へぇ」  ガラガラと引き戸を開くと、かわいらしい莉音の部屋が現れた。そしてその中心にある白い机の上には、某通販サイトの段ボールが置かれている。  宛名には「川島莉音」という彼女の名前がある。そしてその下には「医薬品」という文字。  怪しげでも、医薬品は医薬品なのだな。 「開けるね」  カッターナイフを片手に莉音が言う。チキチキと刃を出し、段ボールに切れ込みを入れていく。カパリと開くと、中から厳重に梱包された薬瓶が出てきた。そっと袋から取り出すと、瓶の中で白い錠剤が音を立てるのがわかる。 「やばそー」  同じく梱包されていた取扱説明書のようなものには見向きもせず、彼女たちは興味深げに薬瓶を見つめる。 「莉音、取説読んでもいい?」 「ん? いいよ」  取説を開き目を通すと、やはりホームページと同じことが書いてあった。 「五日に一粒飲めばいいらしいよ。飲みすぎるとやばいみたい。見た目は本当は変わってないって。書いてあることはホームページと同じだね」 「ふうん、やっぱ飲みすぎるとやばいやつか。オーバードーズか」 「なんか、もとに戻れなくなるらしい」 「え、ずっと真逆に見え続けるってこと? やば~。飲みすぎはやめとこ」 「だね」 「……ねえ」  ずっと黙り込んで薬瓶を見ていた莉音が言った。 「私、いいこと思いついちゃった」 「いいこと?」 「うん。ちょっとみんな付いてきて」  意地悪そうな笑みを浮かべて、莉音は手招きをする。彼女についていくと、そこはフィーラのいる部屋だった。  フィーラとは、川島家が飼っているゴールデンレトリバーのオスだ。私も初めは警戒こそされたものの、今では随分となついてくれている。  どこかで寝ているのか、部屋にその姿は見えない。 「フィーラ」  飼い主である莉音が名を呼ぶと、なんと部屋の隅にあるクッションからフィーラが顔を出した。  わしわしとフィーラを撫でまわす。すると莉音は、フィーラのご飯と共に、なぜかすり鉢を持ってきた。片手に真逆剤の瓶も持っている。 「それ、なにに使うのさ?」 「まあ碧、見てなって」
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