真逆剤

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 張り詰めた空気の中、フィーラは喜んでそのエサに食いついた。相当なお気に入りらしい。見慣れないの粉末の薬物が入っているはずなのに、お構いなく食べている。  フィーラに変化があったのは、その後一瞬のことだった。 「クゥーン」  突然、フィーラが悲しそうな声をあげた。 「どうしたの」  莉音はこれまた優しく声をかける。 「これ、好きでしょ」  「ほら」と彼女がぐいぐいと皿をフィーラへ近づける。 「クァフ、クフ」  フィーラは抗議の意なのか、私たちに威嚇をして見せる。 「効果あり、みたいね」  莉音は威嚇するフィーラを瞳に捕らえて、満足げに言った。 「ねえ莉音、なんで満足げなわけ? フィーラに何かあったらどうする――」 「だーかーら! なにも起きないの! ほらみんな、真逆剤試そうよ」  莉音は私の態度に苛立ったのか、少し言葉に棘を孕ませた。対して「みんな」こと彼女たちは少し気まずそうに莉音につられ部屋へ向かった。 「フィーラ……」  真逆剤はその名の通り、すべてが逆に見えて、聞こえる薬。しかしフィーラの様子を見てみると、それだけではなく味覚までも真逆に変化するらしい。  ならば、酷いことを言えば、フィーラには優しい言葉になるのだろう。 「薬入りのエサ食べられてよかったじゃん。なにもない時に話しかけてこないでね。あんたのことなんて全然心配して無いんだから」  側から聞けばひどい言葉。それでも私の予想通りにフィーラに届いたらしく、毛並みが美しいゴールデンレトリバーは顔をあげて喜んでいるように見えた。 「ずっと会いに来ないから」  逆の言葉でまたね、と言った私は、慌てて莉音たちを追いかけた。
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