八月十六日

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……前に言ったことを、覚えてる? 貴方は襟足(えりあし)をすっきりさせておくことが好きだから。 僕は貴方の首筋(くびすじ)が好きだから。 『わざと僕に見せてくれてるの?』 ……と、からかうと、貴方はすごく嫌がったね。 首まで真っ赤に染めながら。 でも今もまだ、同じ髪型にしているって言うことは、 ……まだ、僕を(さそ)ってくれているの? 僕は木から背を離し、彼のすぐ背後(はいご)に立つと──僕より少し背が低い、貴方の耳にそっと唇を寄せた。 『ただいま』と(ささや)いて、ついでにいたずら心で、息をフッと吹きかけてみる。 貴方はビクッと振り返り、耳を押さえてキョロキョロと(まわ)りを見回す。僕は思わず笑ってしまった。 きっと風が吹いただけだと思ってるだろうに、やっぱり首まで真っ赤に染めて──。
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