八月十六日

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僕はもう一度、もう見えなくなった貴方の後ろ姿を見つめる。 ……貴方には、前を向いて欲しい。 幸せになって欲しいと思うのは、本当。 だけど、こうして今年も変わらず、貴方が僕を待っていてくれることに、安堵(あんど)してしまう自分がいるんだ。 ……こう言ったら、貴方はどんな顔をするんだろう? 『来年も、再来年も、その先も。 僕は、貴方と一緒にいたい』 (いま)だに消せない、 僕の勝手な〈欲〉でしかないのだけれど。 そして、それこそ僕が貴方に叶えてあげられなかったこと。 『僕もまた来るよ』 そう言い小さく手を振って、僕も貴方に背を向ける。 すると、周りの風景が一斉に灰色に変わった。 ……僕も歩き出す。自分の今の居場所へ戻るために。 手には、貴方からの贈り物を持って。 貴方がくれた、お菓子は甘くて。  花の(かお)りが、(いと)おしい。 僕は()を閉じ、貴方を(おも)う。
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