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「だから! 預かっただろう⁈ SDカードを!」  怒鳴るように発した声を聞いた麻里亜は、ハッとしたような表情で男を見た。その声は麻里亜の記憶の中にしっかりと存在していたからだ。 「なんのことだかわかりません……」 「嘘つくなよ! あいつが確かにお前に預けたって言ったんだ。しらばっくれてないで、早く出せ!」 「本当に知らないんです!」  あいつが私に預けた? 一体なんのことなのかわからず、戸惑った様子で訴え続けるが、男は全く聞く耳を持たない。それどころか、パーカーの隙間から見える目で麻里亜をキッと睨みつけた。 「いい加減にーー」  男がカッターを持った手を振り上げた瞬間、 「しゃがんで!!」 と紘太の声がして、麻里亜は咄嗟にその場で体を丸める。 すると、 「うあっ!」 という声と共にダンッと大きな音が聞こえ、恐る恐る顔を上げてみると、紘太が黒ずくめの男に覆い被さって動きを封じていた。 「麻里亜ちゃん、怪我はない⁈」  紘太は男の腕を背後から紐のようなもので縛り上げると、上に乗って身動きができないようにした。それを見て安心した麻里亜は、自分の体に痛みがないことを確認し、紘太に向かって頷いた。 「大丈夫みたい。紘太くんは?」 「これが本業だよ。大丈夫に決まってる」  不敵な笑顔を浮かべた紘太の下で、なんとかそこから逃れようと、黒ずくめの男が暴れているのが見える。 「くそっ、放せよ!」 「犯罪者を放すわけないだろ」 「俺が何したって言うんだよ! 危害は与えてないじゃないか!」 「住居不法侵入、殺人未遂、これだけやっといて危害は与えてないだって? ふざけんな!」  紘太は怒鳴られ静かになった男のフードを引き剥がす。その瞬間、麻里亜が抱いていた疑念は確信となり、顔からは血の気が引いていくのがわかった。 「美並先生がどうして……⁈」  すると美並は麻里亜をキッと睨みつける。 「富田からSDカードを預かっただろう? それを返せ」  そういえばさっきからずっとSDカードと口にしている。しかし麻里亜は本当に覚えがなかったのだ。
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