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「だから……富田さんからは何も預かっていません。美並先生が何を言っているのかさっぱりわからない……」 「ふざけんな! あいつが言ってたんだよ! 早く出せ!」  麻里亜が困惑したように視線を揺らしていると、 「麻里亜ちゃん、とりあえず警察に連絡してくれる?」 と言われ、慌ててスマホを取り出す。 「警察⁈ それはやめてくれ!」  今頃になって事態の大きさがわかったのか、美並は挙動不審になり、懇願するような目で麻里亜を見た。 「なぁ、富田に渡されたSDカードさえ渡してくれればいいんだ。そうすれば……か、金を渡すから! それで終わりにしてくれないか?」 「あのなぁ、お前がやったことは犯罪なんだ。処罰するのは警察であって彼女じゃない。言い訳があるならそこで言え」  紘太の言葉には納得したが、麻里亜は気になることが一つあった。 「あのっ……さっきからSDカードのことばかり……一体どんなデータが入っているんですか?」  そう尋ねたが、美並は気まずそうに顔を背ける。 「そ、それは……言えない……」 「これは俺の想像だけど、たぶん不倫の証拠でも入ってるんじゃないかな」 「えっ……不倫? 美並先生が? だって奥様、これから出産ですよね……」 「奥さんが里帰りをして家にいない間に不倫するなんて、よく聞く話だよ。しかも相手を家に連れ込む男もいるみたいだし」  紘太が淡々と話すのを、美並は俯いたまま黙って聞いていた。それはまるで紘太の話を肯定しているようにすら見えた。 「嘘……信じられない……」 「もし不倫だったとしたら、証拠を持っているのは誰だと思う?」 「もしかして……不倫相手? ということは、富田さんと美並先生って……」 「そういう関係なんじゃないかな」  二人の視線が美並に注がれると、美並は近くに置いてあったゴミ箱を蹴り上げた。 「俺は一回きりのつもりだったんだ! なのにあの女、スマホで動画を撮影してて、挙げ句の果てにその動画をチラつかせて脅してきて……悪いのはどう見たってあの女だろ⁈」  自分の行いを反省せず、悪いのは富田だと言い張る美並を、紘太は呆れたような目で見たと同時に、深いため息をついた。
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