さよなら、雅晴

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さよなら、雅晴

私の一言に、雅晴と彼女は顔を見合わせ、何も言わずにうなだれた。どうやら、これで完全に幕を引いたようだ。だが、私の中にはまだわずかな不満が残っている。この状況を一気に終わらせるには、もう少し強い一撃が必要かもしれない。 ーーさて、どうしてやろうか。 心の中でシナリオを練りながら、私はしばらく黙って二人の様子を見守る。雅晴は、今すぐにでも何か言い訳をしたいように見えるが、もうその言葉すら見つからないのだろう。一方で、浮気相手の女性は完全に萎縮していて、今にも泣き出しそうだ。 でも私は泣かない。こういうとき、泣くのは負けだ。泣けば雅晴はきっと「ごめん」とか「反省している」とか、もっともらしいことを言うだろう。でも、私はそんな謝罪を聞きたいわけではない。 「ねえ、雅晴」 私は優しく声をかけた。まるで何でもない会話をするかのように。 「な、何?」 彼はおそるおそる顔を上げる。浮気がバレたという現実を、彼はまだ完全には受け入れていないようだ。いや、受け入れたくないのだろう。 「私たち、終わりにしましょう」 私は笑顔でそう告げた。 その瞬間、雅晴は目を見開き、口をパクパクとさせた。まるで金魚みたいだ。きっと彼は「どうしてだ?」とか「これからどうする?」とか、言いたいことが山ほどあったのだろうけど、言葉が出てこない。彼の脳内で今、何が起こっているのかが手に取るように分かる。 「いや、待ってくれ!理恵子、誤解なんだって。これは本当に…ただの…」 また同じ言い訳だ。ここで誤解なんて言葉が出てくるなんて、私も今さら感心してしまった。 「うん、そうかもね。でもね、もういいの。」 私は笑顔を絶やさずに続けた。 「誤解かどうかなんて、もう関係ないの。だって、私にとって大事なのは…雅晴が浮気をしていたかどうかじゃなくて、信じられない人と一緒にいたくないってことだから」 雅晴は目を泳がせながら、何かを言おうとしているが、何も出てこない。彼女も黙り込んでいる。私はしばらく二人を見つめ、やがて立ち上がった。 「じゃあ、雅晴。荷物は後で取りに来るから。それまでには出て行ってね。」 私は自分のバッグを手に取り、玄関に向かう。雅晴は慌てて立ち上がり、私の後を追いかけてきた。 「待ってくれ!理恵子、本当にごめん!俺、反省してる!これからはちゃんとするから!」 彼の言葉は、もはや空虚に響く。だが、それが最後の足掻きなのだろう。私は振り返り、雅晴にもう一度笑顔を見せた。 「大丈夫だよ。雅晴も、ちゃんとこれからを考えて。私も、新しい未来に進むから」 そう言って、私は家を出た。ドアを閉めるとき、雅晴が「待って!」と叫んでいたのが聞こえたけれど、もう私の心はここにはない。 外に出ると、すっかり日が落ちていた。冷たい風が頬に触れる。今日は驚くほど、心がすっきりしている。浮気されたというショックはどこか遠いものに感じられ、むしろ解放感すらある。 歩き出すと、街の灯りがちらちらと見え始めた。ここからどうしよう?まずは、友達にでも連絡して飲みにでも行こうか。これからのことを考えるのは、明日にしてもいいだろう。 その時、スマホが鳴った。画面を見ると、会社の主任からのメッセージだ。 「明日も定時退社していいから、しっかり休めよ!」 ふと笑みがこぼれる。皮肉なことに、会社が一番私を解放してくれたのかもしれない。これからは、もっと自分のために生きていこう。 私が主演のこのドラマは終わりではなくただインパクトの強い始まりなだけだ。 ーーさよなら、雅晴。そして、こんにちは、私の新しい人生。
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