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「…っ、!?」
校門に降り立ったその男は長い足でゆっくりと歩き始める。それに従って周りを囲うようにして歩くのは黒いスーツを身に纏う数人。
それはただ異様な光景だった。
明らかに他の生徒とは違う、威圧感を含んだ雰囲気の漂う集団に誰もが息を呑む。
私の記憶にはない日差しに反射して煌めく銀色の髪はさらさらと風に靡き、雑誌やテレビに映る芸能人に引けを取らないほどのオーラを放っている。
なんで、こんなところにあの人がいるの…?
穏やかな心が一瞬にして崩れていく。
冷や汗がたらりと頰を伝い、無意識に手は首裏へと伸びた。
まさか、ね。
そんなわけない。
あの場所から遠く離れたここにわざわざ本人が現れるなんて。それにこの学校は数あるうちの1つにすぎないし、きっと偶然に違いない。
「えっ、何あれ!ドラマかなんかの撮影?」
「あれって、美藤さんじゃない!?だって隣にいるの小野寺さんだし!」
「うそ!ほんとだ!」
ざわめき立つ教室の中。
窓際の生徒は張り付くように窓を開けて顔を出す。そして廊下や隣のクラスからも生徒の声が聞こえてくる。
静かにしなさい、と怒鳴る先生の声は彼らの耳には届かずに掻き消された。
唯一、私だけが自分の席から立つことなくじっとしている。
窓側から2番目の列の席だから立たなくても見えるが、皆のように興味津々に覗くことはしない。
興味がないんじゃない。
怖い。
目が合ってしまえば全てが終わってしまうから。全部が無駄になってしまうからだ。
全ての努力が泡となって消えてしまう。
それだけは絶対に阻止しないといけない。
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