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箱庭
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私の欲しい物は何だろう、と自問する。
かつては友人とお揃いのペンだったり、流行りの服だったり、遊ぶためのお金だったり。薄っぺらいけど友情を育む上では大切な物だった。
それらが手に入らなくなると、私の欲しいものは生活費だったり、安定だったり、家族だったり、生活に根付いた物になった。
それらすら手に入らなくなったこの数年、私が欲しいものは庇護だった。
私を守ってくれる砦。安全地帯。安息の場所。呼吸が少し楽になるような、私が生きてる事を許してくれるような、そういう優しい場所。
それだけだった。高望みなんてとっくに辞めた。
なのに、どうしてこうなったんだっけ、と隣に座る男を盗み見る。
運転手付きの車はまだ新品みたいな香り。振動すら殆ど感じない。シートはふかふかで、ドリンクホルダーも無数にあって、備え付けのタッチパネルのテレビも、足を伸ばせるリクライニングも、高音質のスピーカーも、つまり私が人生から捨ててきた余分な物全てが揃っていた。
それらを当たり前の顔で享受する蛍は、私みたいな取るに足らない人間を視界に納めると「帰ろうか」なんて普通の家族みたいな言葉を述べた。
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