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「だから、ファーストネーム」 しまった、追撃が来るとは。下の名前なんてこれっぽっちも考えてない。焦れば焦るほど、何のアイディアも湧かない。 「教えていただいても?」 ずい、と一歩近づいてきた常盤蛍から「…えっと…ええと…」と震える足で同じく一歩距離を取る。仰け反りながら辛うじて絞り出した名前は。 「…田中……はなこ、、じゃなくて、はな、花です!田中花」 じゃなくてって何だよ、と自分を殴りたくなる。しどろもどろな返事に、当然疑わしさを増した男は「花、さん?」と辿々しく偽名を呼んだ。 「はい、花…です」 「本当に?なんか、ちょっと本気で心配になってきたな…」 「信じてください!嘘なんてついてないです!」 「…あっ、じゃあ社員証見せてもらっても良いですか?」 最初からこうすれば良かった、と言わんばかりの満面の笑みに喉が引き攣る。 そんなの見られたら諸々一発アウト。 「しゃ…社員証、、忘れてしまって、」 ハハ、と渇いた笑い声を溢すと、彼は「へぇ」と小さく呟いて迷いなくスマホを取り出した。 「警察呼びますね」 「え」 驚く私を横目に素早い手つきで画面をタップし、私の動向を確認しながら静かに耳に当て、一つ咳払い。 「あ、もしもし、実は—」
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