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「いや、喜ぶって言葉は語弊があるかな」
「…え、ほら、やっぱ、」
「あの人、自分は好きな人と結婚できなかったから、俺が好きな人と結婚できるの羨ましがってる」
瞬時に思い出したのは、蛍には母親がいない事だった。いつだったか雑誌で見た『常盤不動産』の社長の顔をぼんやりと思い出す。蛍には全然似ていない、と思った記憶がある。
「…で、でもさ、蛍の実家って『常盤不動産』でしょ?もっと相応しい人が…それこそ家柄のしっかりした人が」
「別に〜?奥さんの実家に頼る必要ないもん」
「で、でも、こんな簡単に決めていいわけ、」
「ねぇ、菫」
驚くほど冷たい声。
気圧される静かな気配に、ヒュ、と喉が鳴った。
「さっきから言い訳みたいな言葉ばっかりだけど、何?」
必死にダメな理由を探す私に冷たく言い放つ蛍。その目には、先程までの蕩けるような甘さは欠片もなくて、同一人物とは思えない身の代わり様だった。
「マリッジブルーってやつ?それなら仕方ないけど…。もしかして、結婚するつもりもないのにあんなキスを受け入れて、婚姻届まで書いたの?何、菫って放火の次はロマンス詐欺までするつもり?どれだけ罪重ねるの?」
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