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詰るように早口で言われ彼のペースに飲み込まれる。放火という言葉に恐怖がぶり返して、わなわなと震える口が「ち、ちがう」と不器用に弁明を紡いだ。
放火した訳じゃない。
故意じゃない。
罪なんてない。
私のせいじゃない。
「…、ち、違う」
「じゃあ何?」
「ただ、、、ちょっと…」
「ちょっと?」
「心の、準備が…」
媚びるように小さく苦笑いを溢す。笑いたい訳ではなかったけど、泣くよりはずっとマシだと思った。それを揶揄するように鼻で笑った蛍が「準備?」と腰を屈め私に視線を合わせる。
煌めく瞳の奥は静かな怒り。微かに緑がかった色にも見えて、その深い暗さと輝きの相反が、まるで夜空のようだと陳腐な感想を抱いた。
その瞳に魅入られていると、彼の唇が緩やかに弧を描く。
「8年もあげたのに、もっと準備が必要なの?」
8年。
それは私達が離れていた年月。
「何、言ってる、の」
「何って、そのまんまだよ?」
「意味…わかんない」
彼の瞳に映る青ざめた顔。そのくらい近い距離で彼が瞬くと、瞳の中の私が閉じ込められたように錯覚した。
蛍という檻の中。
さっきまでは確かに救いだった。なのに今、早すぎる後悔が胸を突く。
「菫。ダメだよ。ちゃんと約束守らなきゃ」
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