救済

21/26
前へ
/154ページ
次へ
一睡もしないまま朝が来た。退院時間までまだある。 一眠りしても良かったけど、染みついた奴隷気質は体を休める事を嫌う。何かに急かされてるみたいに病室を出て、ウロウロと廊下やら売店やらを覗いて、向かったのは談話室。 目的なんてなかったけど一人でいるよりは他人の気配を感じたかった。 外が見える端の席に存在感を隠して座る。糖分が欲しくて買った葡萄ジュースをワザとゆっくり吸いながらテレビを眺めていた時の事。 《速報》の文字に目が釘付けになった。 『ただいま入ったニュースをお知らせします』 男性アナウンサーが真面目な表情を崩さず、低く物々しい声を発する。 『放火の疑いで男を逮捕しました』 ほぼ全焼した建物がテレビ画面に映し出された。報道陣に囲まれ警察の予防線が貼られたそれは、我が家だった燃え殻。 『先日住宅街で起こった火事に関与したとして男が自首をしました。男は——』 ドクン、ドクンと、胸騒ぎに胸が跳ねた。空調は効いてるはずなのに、嫌な汗がこめかみを伝った。迫り上がる胃液を無理やり飲み込んで、両手で口を押さえる。ハッハッと動悸に合わせた短い呼吸を繰り返すうち、苦しさで頭が真っ白になった。 ——あり得ない。
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!

409人が本棚に入れています
本棚に追加