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「もしかして俺の事待ってたの?」
爽やかな朝日を浴びて、笑いかける悪魔。
「そんなに早く俺に会いたかった?嬉しいな」
間に合わなかった、なんて感情に心が小さく死んだ。
嫌だ嫌だと首を横に振りながら一歩ずつ下がっていく。二歩、三歩下がったところで丁度ドアから出てきた人にぶつかり、よろけて地面に座り込んだ。
こんな良い天気なのに地面は冷たかった。
その冷気が手のひらを伝わって背筋まで這い上がる。力の抜けた足は添え物みたいに動かなくて、立ち上がる事も難しい。
「すみません、妻の具合が悪いみたいで」
ぶつかった相手に恭しく頭を下げた蛍は、私の側でしゃがむと背中に手を回し、体を支えるように自分の方へ引き寄せた。
「まだ本調子じゃないんだから、走っちゃダメじゃん」
「蛍…」
「あまり心配ばっかかけないでよ」
「ねぇ、蛍…」
「でもまぁ、可愛い妻を心配できるのも夫の役得、かな?」
「蛍ってばっ!!」
「なーに?」
悲痛な叫びは彼の笑顔で打ち消される。初めから問題は存在しないみたいに。
「…アレ、何…」
掠れた声で問えば、蛍は、全てを手に入れたような穏やかで満ち足りた表情を浮かべた。
「アレ?…あぁ、よかったね、菫。犯人捕まったよ」
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