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菫ちゃん。スミ、スミちゃん、すーちゃん。 私を表す名はたくさんあれど、親を除いてこんな気軽に呼び捨てにする人間はただ一人。 「菫?相変わらず細いけど、ちゃんと飯食ってる?」 常盤蛍。 日本最大の常盤不動産の御曹司。父親は長者番付にもランクインしている本物の御坊ちゃま。私のかつての同級生、記憶から抹消したい相手。 てっきり、海外に住んでいるとばかり思っていた。 「…んで」 「ん?」 「なんで…」 なんで笑ってるの。 なんで気付いたの。 なんで日本にいるの。 なんで再会してしまったの。 「何でって、どう見ても菫じゃん。マスクしてても分かるよ」 つい昨日も会いました、みたいなノリで名前を呼ばれて頭がバグる。計算が間違ってなければ8年ぶりのはず。 「菫のことは、どこにいても見つけられる」 懐かしむような笑みで頬をするりと撫でられて鳥肌が立った。 嘘だ。 あかぎれた手、パサついた髪、ヨレヨレの服。昔に比べて随分見窄らしくなった。誰がどう見ても、あの頃の私と今の私を瞬時に合致させる事なんて出来るはずがない。 だけど、自信満々なコイツに詰め寄る気力もなくて、腕を押し除けて距離を取る。 「ご迷惑お掛けして申し訳ありません、常盤様」
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