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一言で言うならボス猿。群れのリーダー。悪の親玉。良い面も悪い面も、誰も彼には敵わない。そんな人間だった。
私が幸運だったのは、幼稚舎から中1まで、一度も同じクラスにならなかった事だ。
常盤蛍のクラスはトラブルが絶えなかった。
大怪我した子、イジメで転校した子、退職した先生も。常盤へ苦情を申し出た家庭はなぜか不慮の事故や事件に見舞われ、それが数件続けば皆薄々気付き出す。
——関わらないに越した事ない人種。
奇跡的に接点なく平和に過ごしていた私が、何の因果か、目を付けられたのは中1の夏である。
「お前が蛍原菫?」
昼休み。突然声を掛けられたのが悲劇の始まり。
「え……」
固まるのも無理はない。だって目の前には災害級の人間。自分とは無関係だった悪魔が自ら近寄って来たのだから。はい、と言っても、いいえ、と答えてもどんな未来が待ち受けているのか想像がつかない。
困ったように立ちつくせば常盤蛍は「で?お前が蛍原菫なの?」と飽きずに質問を繰り返した。
移動教室に一緒に向かうはずの友人はいつの間にか消えている。私も早く逃げ出したくて、小さく答えた。
「……はい」
ゲームのようにもう一度やり直せたら、きっと私は「いいえ」を選ぶだろう。
「マジで?へぇ、いいじゃん。俺と結婚しよ!」
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