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私の返答に圭子さんは満足げに頷いた。
「そうよ。ファーストタッチ大切にね？」
「いえす！」
「まぁ、この一年、誰かとすれ違った事すらないから大丈夫だとは思うけど」
「はぁ〜い」
「こら！返事はしっかり！」
全く誰に似たのかしら、なんて親のような言葉を残すが、どう考えても圭子さんではない。そういうお茶目さも大好きだけれど。
「じゃ、行ってくるわね」
「お気をつけて〜」
「お留守番よろしく」
車のキーを指に引っ掛けて颯爽と背を向ける圭子さんは私の憧れ。私も彼女みたいに強く優しい自立した女性になりたい。
もう少し余裕があれば、の話だが。
正直、今は生きるので精一杯の日々である。
元来私は人見知りだ。コミュニケーションも上手くない、というより他人があまり好きじゃない。黙々と作業するのは性に合っているが、見知らぬ人間の生活の場に足を踏み入れるのは毎回少し緊張する。
それでもボロボロだった私に職を与えてくれた圭子さんへの恩義がある。仕事に手を抜いた事はないし、今後も抜くつもりもない。
何より職を失うのは死活問題が過ぎる、とエプロンを身に付けながら身震いした。
与えられた仕事を全うする以外、私に残された選択肢はそう多くない。
「よし、やりますか」
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