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ときわ。 それは、私が自分の苗字の次に大嫌いな名前。 「いやいや、まさか」と思う自分と「でも、もしかしたら」と思う自分に訳が分からなくなる。 「見覚えある気がして」 「…そうですか?お会いした事は、、ないかと存じます」 「え?本当に?すごい既視感が」 「いえ、まさか…気のせいだと思います。私、こんな場所に住める知り合いいないので」 腑に落ちていない様子の彼は「うーん?」と大層美しい作りの眉をキュッと寄せて首を傾けた。 考えなかった訳ではない。 富裕層専門。つまりそういう事。過去の私の知人に会ってもおかしくない、と。 でも、あの頃の事なんてもうあんまり覚えてない。クラスメイトの名前すらあやふやで、かつての親友とも連絡が途絶えて10年近く経つ。 それは逆も然り。一目見て私だと気付く人なんて、いないに違いない。ましてやマスク姿なんて。だから高給に釣られて働き出した訳だけど、まかさ。本当にまさか。 「俺、常盤(ほたる)です。名前に聞き覚え無いですか?」 あぁ、なんて事。 もう二度と会いたくなかった人が目の前にいる。 忘れたくても、不快すぎて忘れられない、大嫌いな男。 「聞き覚え、、ないです」 ねぇ、神様。 イタズラにしては度が過ぎてませんか?
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