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依央が痺れを切らして、私と夏目先輩の話を遮った。
「本当は出したくなかったけど、証拠だってあるんです」
依央がそう言ってスマホを取り出した。その様子を見た夏目先輩が、いやらしく目を細める。
けれど依央は、スマホを手に持ったまま動こうとしない。すこしだけ迷いが見える。どうしてなのかはわからなかった。
夏目先輩が、口角を上げる。
「へえ。もったいぶらないで、早く出しなよ」
「……」
「そんなに出すのが憚られるようなものなの? その動画は」
「な、」
狼狽えたのは依央の方だった。
動画って、何のこと? と疑問に思ったので、控え目に依央の顔を見上げた。依央は何も答えてくれなかった。
夏目先輩は楽しそうに微笑んでいる。
「ほら、その子も不思議そうにしてるんだから、教えてあげたらいいじゃない」
「……」
「言えるわけないし、見せられるわけがないよね? マナが性に乱れている姿を映した動画、なんて」
え、と声を上げる。
そんな私に向かって、知らなかったなんて、幸せな子だね、と夏目先輩が静かに笑った。
「夏目先輩、依央、どういうことなの?」
「……」
「僕の口から教えてあげようか?」
ね? 僕はきみに嘘をつかないって、言ったでしょ。
夏目先輩が発した言葉が、腹の底に重たくのしかかる。
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