10人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
ひどく長く感じられた一夜が明けて、古びた窓から差し込む光がだんだんと強くなっていく。明るさが増していくたびに、外から聞こえてくる環境音が大きくなってくる。朝がやってきた。
朝の8時から30分ほど時間が回ったあたりだった。玄関の扉をコンコン、と2回ノックする音が聞こえた。
祥平が来た、と思って立ち上がろうとしたが、身体に上手く力が入らなかった。私が身体を完全に起こす前に、玄関の扉がガチャリと開く音が鼓膜を伝う。
「……何で鍵開いてるわけ?」
「えと、壊れてて」
「本当にさ、しっかりしろよ」
不機嫌そうな顔をして中に入ってきた祥平は、スーパーの袋をテーブルの上に雑に置いて、小綺麗な上着を丁寧に脱いだ。きっと、早朝から営業している隣町のスーパーに行ってきてくれたのだろう。彼の骨ばっている手と、少しだけ筋肉質な腕と首筋をなんとなく眺める。
彼は、高校の同級生だった。クラスは離れているので、普段学校で話すことはあまりない。
いつの日だったか覚えていないが、多分1年前とかそのあたりに、祥平が貧血で倒れる私を介抱してくれたことがあった。
祥平は、ほとんど骨と皮ばかりになった私の身体を気味悪がりつつ、それでもなお心配してくれた。
祥平に私の家庭のことについて話すと、同情してくれたのかどうかはわからないが、それから私にご飯をご馳走してくれるようになった。はじめのうちは主に外食だったけれど、そのときから私はなんとなく、祥平と一緒のときしか、安心してご飯を食べることができなくなっていた。
夏目先輩のときもそうだったのだが、私は、食と睡眠に関して安心感というものを求めているらしい。安全が担保されない場所で眠ることはできないし、安全が担保されない食事を摂ることはできない。というか、摂りたいとも思わない。
けれど、食に関して言えば、祥平といるときなら、私は安心して物を口に運ぶことができる。
最初のコメントを投稿しよう!