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「食べたいの、別にないんだろ? 何でもいい?」
「……うん」
「あそ。じゃあ一旦、それ飲んでろ」
祥平はビニール袋から紙パックの野菜ジュースを取り出して、こちらに渡してきた。言われるがままにストローを刺して、中身をすこしずつ吸い上げた。
彼はまるで自分の家にいるかのように、私の家の台所に立って、いたるところを漁っている。
冷蔵庫なんて見ても、無駄だよ。何も入っていないもの。
本当は、自分で料理でも出来れば良かったのだが、そういう訳にもいかなかった。ネグレクト気味の母は、食費すらまともに置いていってくれない。
しばらく前に、食費を稼ぐためにスーパーでレジ打ちのバイトをしていたことがある。けれど、食費のために取っておいたバイト代が知らない間に消えていたとき、私は全てを諦めた。母親が抜いていたのだ。
それに、私の学校はバイトが禁止だった。だから隠れてバイトをしていたのだが、なぜか私がスーパーで働いていることが学校の先生たちにバレてしまった。たぶん、私に嫌がらせをしている誰かが働く私を見つけて、先生に密告したのだと思う。私は学年の先生にきつく叱られた。何とか停学は免れたが、私は逃げ道を失った。
何となくそのことを祥平に話したら、なぜか祥平が泣いてくれた。そのころからだ。祥平がこうやって私の家に来て、食べ物を作ってくれるようになったのは。
祥平が私に構ってくれるのが、同情なのか、心配なのか、好意なのかどうかはよくわからなかったけれど、私はそれに甘えることにした。
座り込みながら、台所に向かう祥平の姿を眺めていると、祥平は私の視線に気づいて、どうした? と問いかけてくる。
何でもない、と返事をすると、彼は無言で目の前の作業に向き直った。
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