第3章 庇護

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 それから私たちは、メッセージで細かい取り決めを交わしていった。  とにかく、依央がここに来てくれることが決まった。決戦の日は明日だ。  今日と同じように、明日の朝方に寝たふりをして睡眠導入剤を飲ませられないようにすること、綾人くんが学校に行って、こちらの準備ができたらカーテンを半開きにして、外にいる依央に合図を送ること、来訪を私に知らせるときは、インターホンに履歴が残らないように、ノックをすること、結束バンドを切るためのはさみと、外に出るための簡単な服を持ってきてもらうこと、 そんな決め事を、ひとつずつ細かく行っていった。  依央は綾人くんのことを周到だ、と言っていたけれど、依央が綾人くんを出し抜こうとしているこの状況では、周到なのはむしろ依央の方なのではないか、と思わざるを得ない。  依央と時間をかけて何度もそんなことを確認しているうちに、いつの間にか時間が流れていった。少しずつ日が傾いてくる。もうすぐ、綾人くんが帰ってきてしまうかもしれない。 <私、出られるよね?> <大丈夫だから、とりあえずまた明日。もう連絡はとれないもんな?> <多分、無理そう。もうそろそろ綾人くんが帰ってくる> <わかった。ちゃんと履歴消せよ>  依央とのやりとりを終えて、ブラウザの履歴を消す。私はそばにあったティッシュを使って、画面についた指紋を丁寧にふき取った。タブレット端末をもとの場所に、慎重に戻す。  そのときだった。  タイミングよく、玄関のドアが開く音がする。 「……ただいま」
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