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頭皮から髪の毛を毟られて、激痛が走った。全身がその痛みに屈服していた。あまりに強い皮膚感覚に、悲鳴を上げることしかできない。
彼はうるさい、といって私の頬を思い切り叩いた。頭皮に走る痛みに、頬に感じる鈍い痛みが混じって、目に涙が溜まってくる。
「お前は、ただここに居れば良いんだから、変なこと考えんなよ」
「……わかりました」
彼にしがみつきながら涙ながらに謝る私を見て、彼は満足そうに笑った。
もう、これ以上ここに居るのは、無理だと思った。
綾人くんは多分、精神的におかしくなっている気がする。彼はずっと、この無機質で病的なほどに静かな場所で、ただずっと机に向かっていたんだ。こんなところにずっといたら、私も彼に蝕まれて、精神的にも身体的にも、死に向かっていく一方だろう。
私がいなくなったら、彼はどうなってしまうのだろうか、と少し思考を巡らせたが、今の私にそれを明確に想像できるほどの余裕はなかった。私は自分のことを考えるのに頭がいっぱいになっていた。
「お前が感じて良いのは、俺からの痛みだけだよ」
彼は私をきつく抱き寄せた。私は涙ながらに頷いた。逆らう訳にはいかなかった。
脳裏に、夏目先輩と祥平の顔が浮かんだけれど、そのイメージはすぐに消えてなくなった。代わりに、私に制服のブレザーを投げてジャージを取りに走った依央の後ろ姿が鮮明に映し出された。
綾人くんが私の頭に手を回して、深い口づけを落としたのを皮切りに、彼は思い切り激しく私を抱いた。目の前の彼の機嫌をこれ以上損ねないように、私は頭の中に浮かんだ男たちの姿を振り払って、何も考えずに彼からの責めを全身で受け入れた。
ただ、時間が早く過ぎ去れば良いと思った。
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