第3章 庇護

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◇  人から雑に揺さぶられている感覚がして、ゆっくりと目を開けようとすると、あまりにも重い瞼の感覚のせいで、まるで金縛りにあったかのような心持ちになる。  私を起こそうとしているのは、多分、夏目先輩じゃない。あのひとならもっと、魔法を解くかのように、自然に私を眠りから目覚めさせてくれるはずだ。  じゃあ、一体誰が。  そんな疑問を晴らすためだけに、私は渾身の力を振り絞って、瞼を持ち上げた。 「おい、しっかりしろ」  その相手の声がはっきりと明瞭に聞こえてくる。  ずっと瞼をおろしていたせいか、目がひどく乾燥していて、私は瞬きを何度も繰り返した。 「私……」 「大丈夫だから、起き上がれるか?」  朦朧とした意識と現実の狭間で、私を助けてくれるあのひとの声がする。 「依央、どうしよう。頭がぼうっとするの」 「ああ、わかってる。でも一旦、ここから出よう」  依央の手が背中にまわる感覚がする。祥平ほど優しくはないし、夏目先輩ほど暖かくはないし、綾人くんほど無機質ではない。けれど、そのごつごつとした感触の中には、確かな安心感が内在しているような、そんな感覚がした。  すこしずつ、世界に輪郭が生まれてくる。私は依央にしがみつきながら、そんな視界の変化をただひたすらに静観していた。
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