第3章 庇護

67/75
前へ
/221ページ
次へ
 やっと、状況が掴めてきた。  まず、私は依然として綾人くんの家の玄関にいた。けれど目の前には依央がいて、彼が私の肩を抱いている。  手の拘束は外されている。視界の端に、結束バンドの残骸が転がっているのを見て、依央が外してくれたんだ、と理解した。 「依央、今何時……?」 「15時。そろそろ出ないと。立てそうか?」 「たぶん」  依央に支えられながら、上体を起こす。薬が残っていたのかはわからないが、すこしだけ頭が痛かった。  手を動かして、身体の感覚を確かめる。いつの間にか、柔らかい黒のスウェットが着させられていて、布同士が擦れるたびに、あたたかい香りが漂ってきた。 「とりあえず、出るぞ」 「待って」 「なに?」 「スマホ、スマホがずっとないの」  依央にそう訴えると、彼は自分のポケットから、ケースのつけられていない剥き出しのスマホを取り出して、画面を操作し始めた。  多分、私のスマホに着信を入れているんだろう。  けれど、部屋の中からは何の音も聞こえてこなかった。何日もスマホに触れていなかったから、きっと充電がなくなっているのかもしれないし、そもそも綾人くんがあのスマホの電源を切っていたり、壊していたり、あるいは持ち歩いている可能性もある。  諦め半分に視線を宙に漂わせると、依央はため息をつきながら、土足で部屋の中に入って行った。
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加