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◇
正直、あの後どうやって帰り道を辿ったかとか、そんなことはあまり覚えていなかった。
いつの間にか私は、団地の一角にある、カビ臭くてじめじめとした部屋の布団の上に横たわっていて、そしてなぜか依央が隣にいた。嫌な気はしなかったけれど、そこまでの過程を全く覚えていないくらいには、私の体力は限界だったらしい。
「依央、ごめんなさい」
うわごとのようにそう呟く私を見て、依央は首を横に振った。
「お前が内側から鍵開けててくれたから、こうやって連れてこられたんだ」
だから、何も気にしなくていいよ、と彼は宙に向かって呟いた。
これまでのことを思い返すと、全てが嫌になってしまう。学校にいるのも、家にいるのも、はたまた綾人くんの家にいるのも、全てが嫌になる。
私は、どうやら逃げ道というのを失ってしまったらしい。夏目先輩も、祥平も、綾人くんも、私を手に入れたいばかりだった。
けれど、私はどうしたって、彼らがいないと健康的な生活ができないのだから困ったものだ。今だって、さすがに頭がふらふらしてきていて、そろそろ何かまともな食べ物を食べないと死んでしまいそうだった。
「ねえ、依央……」
「ん、どうした」
依央が私を見下ろしている。
「祥平を、ここに呼んでほしい」
依央は、眉間に皺を寄せながら、私の後ろの壁を見ていた。
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